一章 フェアリーテイル・ディテクティブ

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「むう……いただきます」  帆影は降参して、モーニング、改めランチを前にきちんと手を合わせた。  トーストにかぶりつくと、かりっ、と香ばしい音が響いた。じゅわっと染みたバターに、小豆の甘さのコラボレーションがたまらない。 「うま……」  餡子は甘さ控えめで、だからこそ、いっぱい食べても飽きることがない。  自画自賛になってしまうが、帆影は自分の店の小倉トーストは大変美味だと改めて実感した。  なんだかんだ、ほっこりした気分で頬張っていたら、 「帆影ちゃん、こんにちは。ふふっ、ほっぺたに餡子ついてるわ」  斜め向かいの席から、穏やかな老婦人の声が聞こえた。 「っ! すみません時子さん、 おはよ──いや、こんにちはっ」  顔を真っ赤にして餡子を拭う帆影に、声の主──時子(ときこ)は、くすりと微笑んだ。
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