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時子は、きれいに結った白銀の髪に、華奢なフレームの眼鏡が似合う老婦人である。今日はレースのブラウスの上に、ショールを上品にまとっていた。
彼女はこの店の常連客で、帆影が小さい頃からの顔見知りだ。
それ故か、昔から帆影を本当の孫のようにかわいがっている。
そして、心配もしてくれていた。
「食欲があるのは、いいことだわ。最近、体の具合はいかがかしら?」
「あ、う、えっと」
青白い顔を見られたくなくて、ついフードをより深く引っ張ってしまう。
帆影が返答に窮していると、時子は眼鏡の奥の瞳をやわらかく細めた。
「わたしね、昔っから、帆影ちゃんの笑った顔が大好きなんだわ。だもんだから、早く元気になってね。体を治して、前みたいに笑ってちょうだい」
時子のあたたかな日ざしのような言葉は、帆影にとって励みになるはずだった。
なのに帆影の胸は、冬の風に吹かれたように、ひやりと痛んだ。
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