一章 フェアリーテイル・ディテクティブ

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(俺は──)  小さな頃から、優しい人たちに囲まれて生きている。  両親はもちろん、時子さんのような常連客の人たちに、店員さんたち。  そんな人々にずっと、心配そうな顔をさせてばかりいる。 (みんなに心配かけたくないのに。早く元気にならなくてはいけないのに──)  焦れば焦るほど、余計に頭痛や動悸がひどくなって、目の前が真っ暗になってしまう。 (もどかしい)  自分に対するいら立ちを覚えて、けれども、その感情を心優しい婦人の前で表にする訳にもいかず。 「──お気づかい、ありがとうございます」  帆影は自分の心を隠して、微笑むしかなかった。  心を落ち着けようと、珈琲のカップに口をつける。  ──飲みなれているはずの珈琲が、いつもより少しだけ苦く感じた。
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