一章 フェアリーテイル・ディテクティブ

11/31
前へ
/118ページ
次へ
 * * *  時子が帰った後、帆影は少し出かけることになった。  母が、家に籠ってばかりなのも体に良くない、と主張したためだ。 「今日はいい日和だもん、体がそこまでえらくないなら、軽く散歩してらっしゃい。もしちょっとでも気分が悪くなったら、すぐ帰ってくること」  そう言って送り出されたものの、帆影は困った。 「特に行くとこないんだが……」  散歩なら、名古屋城や名城公園が良いのかもしれないけれど、家から歩くにはやや距離がある。  迷って、帆影は結局、栄のほうへとぶらぶら歩いていった。  繁華街・栄地区にある久屋大通公園は、約一キロメートルにわたる都市公園だ。  公園の中心にそびえ立つのは、テレビ塔。  蒼穹を背景に輝く銀色の塔を、帆影はまぶしい思いで見上げた。  不意に、ひらり、と頬を白い何かがかすめた。桜の花びらだった。  反射的に花びらをつかみ取る。  握りしめないよう気をつけたつもりだったけれど、花びらは傷つき、汚れていた。近くの小学校や中学校から飛んできたのだろう。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加