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時子が帰った後、帆影は少し出かけることになった。
母が、家に籠ってばかりなのも体に良くない、と主張したためだ。
「今日はいい日和だもん、体がそこまでえらくないなら、軽く散歩してらっしゃい。もしちょっとでも気分が悪くなったら、すぐ帰ってくること」
そう言って送り出されたものの、帆影は困った。
「特に行くとこないんだが……」
散歩なら、名古屋城や名城公園が良いのかもしれないけれど、家から歩くにはやや距離がある。
迷って、帆影は結局、栄のほうへとぶらぶら歩いていった。
繁華街・栄地区にある久屋大通公園は、約一キロメートルにわたる都市公園だ。
公園の中心にそびえ立つのは、テレビ塔。
蒼穹を背景に輝く銀色の塔を、帆影はまぶしい思いで見上げた。
不意に、ひらり、と頬を白い何かがかすめた。桜の花びらだった。
反射的に花びらをつかみ取る。
握りしめないよう気をつけたつもりだったけれど、花びらは傷つき、汚れていた。近くの小学校や中学校から飛んできたのだろう。
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