一章 フェアリーテイル・ディテクティブ

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(そういえば、今年は桜の開花が遅かったな)  盛りはとうに過ぎ、葉桜になりかけているけれど。 (四月の最初は、高校に通うのに必死で、桜を楽しむことを忘れていたな)  苦笑して、薄桃色の花びらを大事に手で包み込んだまま、歩いていると。 「……ん?」  帆影は、ふと立ち止まった。  テレビ塔の目と鼻の先に、昭和創業の喫茶店をはじめ、花屋やヴィンテージのドレスショップが集まる一角がある。  その中に紛れた、ヨーロッパの古いアパートを思わせる建物。  その一階に店があった。  その店がうっすらと纏っている不思議な空気に、引き寄せられる。
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