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手の中の茶色い宝石に、帆影はしばし、うっとりと見とれていた。
そんな子どものおでこに自分の額をこつんと合わせ、これ以上ないほど、彼は優しい笑みでささやく。
「お守り。これから先、お前が俺を必要としてくれたなら──このお守りが、お前を俺のもとへ導いてくれる」
不意に、はるか遠くの方から風に乗って、かすかな声が聞こえた。
誰かを必死に捜し、呼び続ける、女性の声。
母だ、と帆影が気づくと同時に、青年はそっと嘆息した。
「……どうやら、お迎えがきたようだね。お前はもう、お帰り」
砂利道に帆影を下ろし、小さな形の良い頭をひと撫でする。
「おにいちゃん」
「さよならだ。お前のことが大好きだよ」
「おれも、おにいちゃんが好き!」
どうしても彼にそれだけは伝えたくて、必死に叫ぶ。
すると彼は、心の底から幸せそうに、野バラがほころぶように笑った。ぽん、と優しく幼子の背中を押し、もう行くよう、うながした。
「ばいばい。俺の、かわいい子」
帆影はよちよちと歩き出し、六歩ほど進んだところで、ちょっとだけ振り返る。白い秋の光の中で、彼がまだ幻みたいに立って、微笑んでいた。
その姿を見て、帆影は、はっと気づいた。一気に夢から覚めたように、気づかされたのだ。
──この人、〇〇が、ない。
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