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そう言って、来夢が手さげ袋から取り出したのは、一冊の絵本。帆影の席からも、絵本のタイトルが見える。『不思議の国のアリス』だった。
来夢が丁寧に本を開く。華やかな色遣いの、生き生きとした挿絵だ。美しく、緻密で、摩訶不思議なかわいらしさと躍動感がある。
(あれ?)
しかし、帆影は妙な点に気づいた。
本来、アリスがいる場所に、その姿がないのだ。もっと詳しく言えば、きれいに切り抜かれたみたいに、絵からアリスが消えていた。
色鮮やかな背景に、白い、空虚な少女のシルエットが浮かび上がっている。それは、重要な最後のピースがはめられていない、パズルを彷彿とさせた。
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