一章 フェアリーテイル・ディテクティブ

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 ──この人、〇〇が、ない。  別れ際に彼を見たとき、幼い自分はそう思った。  彼には、本来あるべき「何か」が足りていなかった。  そのことに大きなショックを受けた。  なのに。 (一体、何が足りていなかったのか)  それすら思い出すことができない。  そのくせ、彼の口もとに浮かんだモナリザのような微笑みとか、彼の肩にゆれていた木漏れ日とか、そんな細かい場面が鮮烈に記憶に残っている。  そして、彼の言葉も。  ──お前のことが大好きなんだ。 「なんでだろう」  今、無性に、あの人に会いたい。  顔も覚えていない、あの人に。
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