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──この人、〇〇が、ない。
別れ際に彼を見たとき、幼い自分はそう思った。
彼には、本来あるべき「何か」が足りていなかった。
そのことに大きなショックを受けた。
なのに。
(一体、何が足りていなかったのか)
それすら思い出すことができない。
そのくせ、彼の口もとに浮かんだモナリザのような微笑みとか、彼の肩にゆれていた木漏れ日とか、そんな細かい場面が鮮烈に記憶に残っている。
そして、彼の言葉も。
──お前のことが大好きなんだ。
「なんでだろう」
今、無性に、あの人に会いたい。
顔も覚えていない、あの人に。
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