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一階に顔を出せば、『洋菓子・喫茶 シャドウ』の見慣れた光景が広がっていた。
店内を夕焼け色に照らすランプに、ステンドグラスの窓、常連客でにぎわう席に、活き活きと働く店員たち。
「あら帆影、おはよう!」
帆影の母──本宮咲帆がお盆を片手に、太陽みたいな笑顔で振り返った。
おしゃれなバンダナでローポニーテールにまとめた栗色の髪が、豊かに波打った。
咲帆は、実年齢より若く見える美人さんである。今は喫茶店の給仕のため、白いレトロなエプロンを身につけていた。
帆影は、なるべく唇が笑みの形になるよう努める。
「おはよう、母さん」
「体の具合はどう? 帆影」
「うん。まだ少しだるいけど、頭痛は一応、落ち着いた」
「──そっか。さ、空いてる席に座りなさい。朝食を用意するから」
母の太陽のような笑顔が一瞬だけ曇ったのを、帆影は見逃さなかった。
けれど、すぐに母はいつも通りのにこにこ笑顔に戻って、厨房へと消えていった。
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