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 帰りの電車の空気は重苦しかった。明、唯人と大和の三人で、各高校の陸上部員でぎゅうぎゅうに詰まった電車に揺られる。  大会一日目の結果。明は1500mの予選でベストを叩き出し決勝に残ったものの、入賞は逃した。そして、大和の400m決勝は予想通りのビリ。唯人の四継は、予選の段階でDQ、つまり記録さえ貰えない、失格。  四継は正直予想外だったが、明と大和自身の結果は想像通りだった。陸上で、野球のサヨナラホームランのような奇跡は絶対に起きない。  なんか適当にふざけたことでも言おうか、と思ったが、まだ赤いままの唯人の瞳がそれを躊躇わせた。そして思う。悔しいんだ、唯人は。  ぼんやりと窓の外を見ている明は、どう思っているのだろう。ベストを出したが、それでも唯人と同じ気持ちなのだろうか。陸上の県大会で、決勝に残ること。たとえそれで入賞できなくても、大和のようにビリだったとしても、そこまで自分を卑下するようなことではない。  なんていったって、各学校の、足の速さに自信のある奴が集まっているんだから。俺たちは俺たちの学校でなら皆、飛び抜けて速く走れる。  ふいに、窓に映る明と目が合った。  その顔が苦笑を浮かべるのを見て、大和は瞬時に悟ってしまった。  中学の時からずっと、自分に自信があった。だけど陸上を始めて、圧倒的なすごさを持つ同年代に嫌という程たくさん会って、いつしかそれが当たり前になって、自信を無くさない為の場所を思い浮かべる癖がついて。  そうして俺が、悔しさを手放したのは、いつだったろうか。
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