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 家に帰り、夕食が出来上がるまでの時間を大和は自分の部屋で過ごしていた。  部屋着に着替えてベッドに腰掛けると、徐に手を伸ばして勉強机に置かれた一枚のCDを掴む。そのケースは、バキバキにひび割れている。  数日前、床に転がっていたこれを見つけた時には、あれ、俺踏んじゃったのかな、と最初は思っていた。マジか、位にはショックを受けたけれど、別に聴けたらいいし、取り立てて気にしなかった。  だけど、そのすぐ後。いつも適当に床に広げておく雑誌が部屋の隅、カーテンの真下にあった。堆く丸まった布団の状態にも、違和感を覚えた。  母親が大和のいない間に掃除をしたとかでは絶対にない。それならこんな風に乱雑な状態で置いておかないから。  大和は朝起きて、布団を綺麗に畳んだりすることはしない。だから、こう乱雑でもおかしくはない。だけど、何かが違う。割れたCDケース。カーテンの真下にある雑誌。堆く丸まった布団。一度小さな疑問を感じてしまうと、それはどんどん大きくなり、やがて確信に変わった。  そうか、と思った。  なんだ、と思った。お前やっぱり、苛ついてるんじゃんか。家では良い子のふりしてるけど、家族がいなくなって、苦しんでるんだろ? どうしていいか、わからないんだろう? つうかさ、それが普通だろ? 一家心中ってなんだよ、自分だけ生き残るってなんだよ、俺にはそうなった時の気持ちなんて一ミリも想像できないけれど、それでもわかる。中学生の男だろうが女だろうが、それはどう頑張ったって受け入れられる現実じゃねぇだろ。  でも、そうか。  瑞希の苛々の対象に、紛れもなく俺は入ってるのか。
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