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 夕食は、大皿にタワーのように盛り付けられた馬鹿でかい海老フライ。  父親はまだ仕事で帰っておらず、母親と大和、瑞希の三人で食卓を囲んでいた。 「大和、一日目お疲れ様。決勝に残ったなんてすごいじゃない」  無駄にテンションの高い声で母親が正面に座る大和に向けて笑う。  うん、だとか、別に、だとか大和は短い単語で言葉を返しながら海老フライを口に運び、どこか諦めに似た気持ちで思う。  きっと、母さんは一生瑞希に慣れない。  大会だから奮発しちゃった、と大きな海老フライを出してきたが、それは本音では大和の為じゃない。海老フライは、瑞希が好きだからだ。  今思えば、もしかしたらあれも嘘だったのかもしれない。瑞希が家に来てしばらくして、母親が初めて海老フライを食卓に出した時、瑞希が感動した声で言った。「美味しい! こんなに美味しいものが世の中にあるんだ!」  それまでも、それからも、瑞希は母親の作るご飯をどれも美味しいと言って褒め、喜んで食べた。だけど、あの時は他のどれとも違って、本当に心の底から驚いたような、思わず口をついて出てしまったといったような、純粋な、子どもの声だったように思う。
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