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 時々、何の前触れもなく瑞希の走る後ろ姿が頭に浮かぶことがあった。  それはダルい授業中の時もあったし、陸上の自主練をしている時もあった。部屋で漫画を読んでいる時だったこともあるし、夜ベッドのなかに入っている時だったこともある。  想像の中の瑞希は、実際はまだ中学生なのに、いつだって大和と同じ高校の制服を着ていた。  白のシンプルな半袖のブラウスに、赤い細紐のリボン。紺色の、膝丈のプリーツスカートに、黒の無地のソックス。  そこでは音は何もなかった。瑞希の声も、息遣いも、走る足音も聞こえない。暗い、トンネルのような闇のなかを、淡々と一人で走っている後ろ姿だけがそこにある。  瑞希の背筋はすっと伸びていて、腕もしっかりと後ろに振れていて、フォームも悪くない。一定のリズムを崩すことなく、まっすぐに伸びた髪を靡かせながら、走り続ける。  瑞希――。  大和は何度かそう、呼びかけたことがある。  現実の瑞希じゃない。大和の頭のなかで作り上げられた、もう一人の瑞希。  なぁ、お前は――。  ここでは大和の声だけはやけにはっきりと響いた。大和の問いかけに、瑞希は答えない。瑞希に聞こえているのか、いないのか。聞こえていて尚、あえて大和を無視しているのかどうかはわからない。暗い、トンネルのような闇のなかを淡々と走り続ける。  なぁ、お前はどこに行くんだ?  走り続けるその先で、大和はいつだって同じようにそう問いかけ、そして、泣きそうな顔になって目を細める。  どこに行こうとしてるんだ?  微かな光。  大和には永遠に掴めない、希望の光が見える。
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