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大会二日目に行われた100mで、唯人は四位入賞した。競技人数の多い花形の100mで、これは本当にすごいことだ。
そして、大会三日目の最終日に行われた4×400mのマイルリレーは、予選を通過し決勝に残ったものの、入賞は逃した。グッチー先輩は大会一日目の終わりに言っていた通り、本当にこのマイルリレーに全てを懸けていたようで、決勝でマネが計ったラップタイムは、あくまで参考タイムであるものの自己ベストを2秒も更新していた。
走り終わった後のその顔は晴れやかで、後悔なんてないだろう、そう思っていた。
マイルリレーのメンバーで練習用トラックの外周をゆっくりと走り、ダウンをしている時だった。
二列に並んだ隊列の後ろで、大和はグッチー先輩の隣だった。本当になんとなく、先輩を労うつもりで、大和は口にした。「最後あんだけ速く走れたんですから、先輩の陸上人生、後悔なんてないっすね」
すると、グッチー先輩は一瞬ぽかんとした顔をして、すぐに顔をくしゃくしゃにして笑う。いやいや、とごく当たり前のことを諭すように。
「どれだけ普段の練習を頑張ったと思っていても、最後、思った以上の走りができたとしても。一位にでもならない限り、本当の意味で、心の底から後悔がない人なんていないよ」
中学時代、本気でチームメイトが邪魔だと思っていた。だけど、高校にあがって、陸上を始めて。一人になった途端、俺は悔しさを無くした。来年の今頃、俺はきっと、後悔なんてない。一位になったからとか、やり切ったからとかじゃなく。
感覚を掴むために念入りにスタートダッシュの練習をしながら、音楽プレーヤーがなくなって、いつものルーティンが崩れて、メンタルが、モチベーションが、とか言いながら、だけど、本当は、俺は。
初めからすべて、諦めている。
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