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 陸上部のマネは白根さんを入れて三人いて、三人ともまあまあ可愛い。大会の日は、普段の練習とは比べものにならない位に皆優しくて、だから明のようにマネにタイムを計ってもらって、ここぞとばかりに甘える奴も多い。  だが、大和は一人で黙々と走る方が好きだった。タッチする画面のない、走る邪魔にならない小型のプレーヤーで音楽を聴きながら、自分の呼吸の音も、足音も聞こえない状態にして、淡々と走るのが好きだ。曲は必ず、日本語の歌詞に変に感情移入しないで済む、洋楽。意味がわからないけれど、それがかっこいいし、意識を集中できる。  一番のお気に入りの曲は、一曲がぴったり3分で終わる。大和は記録会や大会の直前練習では必ず、それを繰り返し聴きながら念入りにストレッチをし、トラックを走った。  一種の願掛けみたいなものだ。この曲を聴けば、よし、いける、と思えるのだ。  陸上にしろ、どのスポーツにしろ、何か一ついつものルーティンが崩れると、メンタルが、モチベーションが崩れてしまうことがある。  別に、携帯電話をジャージのポケットに入れて走ったっていい。洋楽もダウンロードしてあるし、一応イヤフォンも持ってきている。むしろ、普段の自主練の時にはウォークに切り変えたタイミングで携帯をいじりたいから、そうすることだって多い。だけど。  今日は、あの、タッチできる画面のない小型の音楽プレーヤーでないと。ポケットの中で存在を主張してくる携帯電話は、試合前にはやたらとうざったく思えて、どうも苦手だ。
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