1/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

 大和が陸上を始めたのは高校に入ってからだ。中学時代は、三年間野球部だった。  二番打者で、ポジションはショート。高校の奴らにそう言うと、野球を知ってる奴らは、「すげぇ、野球部入れよ勿体ねぇ」って笑うけど、大和は内心複雑だった。  当時、バットの芯にボールを当てるのは、チームの誰よりも上手かった。対戦相手のめちゃくちゃ速い球を投げるピッチャーに対してうちの四番バッターが大振りして空振ってるなか、大和は何も考えなくてもそれができた。ボールがバットの芯を捉えた、キンと鳴る小気味よい音が響いた。    だけど、そのテクニックを持ってしても余りある程、大和はチームの誰よりも体が小さかった。食っても食っても腰回りに肉は付かないし、体は大きくならなかった。そしてそれは、中学野球にとっては、なかなか大きなハンディだった。  バント、セーフティバント、バスター、バスターバント。それらを器用にこなす大和のことを、策士だ策士だって、チームの奴らは持ち上げるけれど、大和は内心げんなりしていた。  一番バッターが出塁した時に、大和がすべきこと。ツーアウトやよっぽど点差が離れているとき以外、監督から出される指示は、ただ一つ。深く被ったヘルメットのツバに触れ、了解、の合図を送る。  いつも、思っていた。ベンチが盛り上がるなか、バットをきつく握りしめたまま、ネクストバッターズサークルのなかで溜め息をついていた。またかよ。  俺だって、ガツンと打ちてぇよ。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!