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 従姉妹の瑞希(みずき)が家に来たのは、今から三年前、大和がまだ自分の傲慢さに気付かずに野球をしていた、そんな時だった。  来年は受験の年だし、大和には気を遣わせて悪いんだけど。  そう前置きした後で、両親が躊躇うように口にした言葉に大和は驚いた。   『暗い夜の海に、家族四人で車で突っ込んだ、一家心中の生き残り』  勿論、両親はもっとオブラートに包んだ言い方をしたけれど、両親が説明したのは、つまりはそういうことだった。  マジかよ、と思った。瑞希とは小さい頃に一度だけ会ったことがあるらしいが、全く覚えていない。よく知らない奴とこれから一緒に住むことには少なからず抵抗があった。だけど、それを聞いた時。ちょっとだけ、いや、正直かなり興奮した。  家族で海のなか車ごと突っ込むとか、やばすぎだろ。  頭、いかれてんじゃねぇの?  一体、どんな奴が来るんだろう。好奇心という言葉に隠れた加虐心を必死で押さえつけながら、初めて会った瑞希は、拍子抜けするほど普通の女の子だった。  小学五年生だという彼女は、ごく一般的な赤いランドセルを背負って、「今日からお世話になります。福島瑞希です。よろしくお願いします」と、玄関先で両親と大和に向かって、その小さな頭を下げた。
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