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「唯人、お疲れさん」  待機場所に戻ってきた唯人にさりげなくそう声をかけようとして、大和はすぐさまそれをやめた。今日の午後ラストに行われた、四継の予選。二年では唯一、唯人だけがメンバーに選ばれていた。予選は、練習通りであれば必ず決勝に進めるはずだった。だから、大和も安心して二階のスタンドでそれを見ていた。  第三コーナーまでは二位だった。一位との差もほんの僅か。三着までにゴールすれば、自動的に決勝にあがれる。だから、なんにも焦る必要はなかった。だが、三走と四走のバトンがうまく繋がらなかった。四走が速くにスタートを切りすぎてバトンを掴みきれず、振り返った時には既にバトン受け渡しの範囲であるテイクオーバーゾーンを越えてしまっていた。  部内で100mを一番速く走れるのは、三年生の先輩を差し置いて唯人だ。唯人は二走だった。唯人のせいじゃない。  それでも、唯人の目は真っ赤だった。  リレーメンバーの三年生は、まだ誰一人戻ってきていなかった。慰め合っているのか、罵り合っているのか。メンバーの顔を順に思い浮かべ、恐らく後者だろうとぼんやり思う。  広げられたブルーシートの隅に座り、誰とも話さず、自分の荷物をまとめ始めている唯人。   自分のせいじゃないのに負けることと、自分のせいで、負けること。本当に悔しいのは、一体どちらなのだろう。
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