夢の川

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人生にやり直しは利かない。 誰かが言った言葉だ。 俺は 人生の中で取り返しのつかない失敗をした。 でも、いくら後悔しても 時を巻き戻す事は絶対に出来ない。 俺は誰かが言ったその言葉を頭の中で何度も反芻する。 いくら後悔しても やり直しはきかないのだから先の事を考えろと自分に言い聞かせるように... でも、どうしてもやり直したい。 いくら前を向こうとしても、過去に気持ちを引っ張られてしまう。頭から離れない。やり直せないとわかっていても... 俺には高校生の頃好きな人がいた。 クラスメイトの女子で名前は沢田綾。 黒髪のセミロングで背丈は160㎝ぐらい 渋谷辺りに行けばモデルのスカウトをされるのではないかと思うぐらいに美人でクラスでの人気も高かった。 当時は俺自身、沢田が好きだという自分の気持ちに気づいていなくて女友達として彼女と他の友人も含めてよく遊んでいた。 いや、本当は好きだという気持ちに気づいていたのに、本当は出会った頃から好きだったのに、 放課後にたまたま帰り道が一緒になると沢田から俺に声を掛けに来た。 「黒山くんじゃん、こっち方向なんだね。」 「まぁ、今日は帰りにスポーツセンターに寄ろうと思って、それで」 沢田はポンッと手を叩いて。 「あー....あの隣にゲームセンターがあるスポセンね~結構大きいよね。」 「バッティングも出来るしトレーニングルームもあるからね。」 一階にはバッティングセンターとバスケットコート二階には設備の整ったトレーニングルームとサッカーコート、地下にはプールもある大型の運動施設だ。 「黒山くんは、トレーニングしに言ってるの?」 「いや、俺は弘哉(ひろや)と隆成(たかなり)でバスケやりに行く。」 「へぇ、黒山くん背高めだしバスケ強そう!」 「隆成の方が強いよ。アイツ、カンガルーみたいな脚力してるからな、背も俺より5センチ上の183センチだし」 「隆成くんバスケ部だもんね。そりゃ、そうか。あれ?黒山くんは何部だっけ?」 「俺は部活入ってないよ。」 「という事は帰宅部か~私と同じだね。」 「お前は図書委員みたいな顔してるけどな。」 「へぇ、それって....私が知的に見えるってこと?」 沢田は立ち止まると手提げバッグから眼鏡ケースを取り出してカチャリと目に装着する。 「どう?」 「どうもこうも....」 「まぁ、これゲームのやりすぎで眼が疲れやすくなったから買った眼鏡なんだけどねー パソコンする使う時に付けるんだ。」 こいつもゲームするのか、当時の俺にはあまり沢田がゲームをしているイメージを想像出来なかったから驚愕的な発言だった。 「沢田もゲームするのか。」 「するよ?モンスターと戦うゲームとかマシンガンで敵を倒すゲームとか....」 結構物騒なゲームをおやりになっているのだな....。 「学校では、そんな素振り一度も見たこと無かったから....なんか、意外だな。」 「そう?まーちゃんとはモンスターと戦うゲームの話したりするよ?でも、学校ではゲームの話はしないかも。ドラマの話に好きな俳優の話に昨日見たバラエティ番組の話とか」 「そうなんだ。」 そして、しばらく沈黙が続く。 隣をみると、沢田が俺と同じ速度ぐらいで歩いている。 気まずい、これはとても、気まずい。 ただでさえ近寄り難い程の存在の女子と今は二人きり。素直に喜ぶべきなのかもしれないが、この時の俺は恥ずかしさが先行してしまい、別の道に行ってくれないかと心の中で願っている。 「ドラマとか見る?」 数分間、無言だった沢田が口を開いた。 「見るよ。」 「私、今夜のドラマ好きなんだ。見てる? マシュマロっていうドラマ。」 「マシュマロ?あぁ、俺も見てるよ。」 「あれ凄い面白いよね!原作があるらしいんだけどドラマが終わってから見ようか今から読んじゃおうか悩んでるんだー」 「俺は小説から好きだったから内容全部知ってるけど。それでも面白いと思ったな。」 「原作読んだことあるんだ。」 俺はこくりと頷く。 「いいな~今度貸してくれない?」 「えっ....」 「勿論タダでとは言わないよ?そうだな....」 「貸してくれたら、デートするとか、どう?」 「はぇっ!?」 不意打ちすぎて変な声が出た。 デート?本を借りるのにそこまでしなくても良いのでは無いか。 「...ぷっ!はははは!凄い顔!そんなにびっくりした?」 隣で吹き出す沢田何が面白いのか爆笑している。その様子を見て俺は自分が彼女にバカにされているのだと思い苛立ちを覚えた。 「あのな....そんなことしなくても本ぐらい貸してやるよ。」 「ほんと!?やったー!ありがとう!!」 嬉しそうに喜ぶ沢田。 「でも、ちゃんとお返しはするよ?勿論デートでも良いけど?どうする?」 「お返しなんていらないし、デートなんて尚の事。というか、いやだ。お前と付き合うと色々と気を使いそうだし。」 「何それ?私、黒山くんとは仲良く出来ると思うんだけどなー。」 「クラスメイトとしては仲良くするよ? でも、恋人としては....お前はあまりにも....なんつーか....」 「顔が好みじゃない?」 「な!?ち、ちげーよ!つか、俺もう行くから。じゃっ。」 俺は恥ずかしさと苛立ちに耐えられなくなり 逃げるようにして沢田から離れた。 この時の苛立ちと恥ずかしさはバスケのスリーバイスリーでしっかり発散した。
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