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翌日の学校に登校すると教室がざわざわしていた。まさか、昨日の事が知られていたのか....いや、それはきっと杞憂だそうに違いない。
「ねぇ、黒山。昨日綾と二人で帰ってたんでしょ?」
やはり、杞憂では無かったようだ....
俺が座る席に近づいて来たのはクラスメイトの女子の横山だ。
「俺もそれ聞いたわ!まさか、お前が沢田とな~」
男子の山田が横から入って来て
「実はそれ話たの俺なんだよ。昨日ちょうどお前たちを見掛けてさ、最初は別人かと疑ったんだけど。どっからどう見ても沢田と黒山じゃん!って。」
男子の中村も入って来た。
「たまたまだよ。」
「ほんとかなー?」
「本当だよ。沢田にも聞いてみ?」
「そう、わかった。」
横山は沢田の所まで行くと
「ねぇ、綾、昨日黒山と一緒に帰ったんだって。」
「あぁ、うん!たまたま帰り道が一緒になってさ~というか、なんで皆私を見てるの?」
いつのまにかクラス中の注目が俺と沢田に集まっていた。
「だってよ、お前教室でコイツとあまり話さないじゃん。だから何か意外だなって皆言ってたんだよ。」
山田も沢田に近づき話す。
「教室では話す機会ないからね。」
「本当は付き合ってるんじゃないのー?」
「ど、どうかなぁ?」
どうかなぁ?じゃないよ!付き合ってなんなていないとはっきり言ってくれ!その微妙な感じの答え方やめろ!俺は心の中でそう思った。
「でも、私、黒山と綾が付き合ってても別にありだと思うけどな。」
「えー!!?俺も沢田と付き合いたい!
黒山がありなら俺もありだろ!」
「いや、山田君には彼女がいるでしょ?
ひとつ先輩の。さすがに彼女ありは私も無しだよ。」
「ちっ....バレたか。」
悔しそうに舌打ちする山田。
横山が俺の方を向くと
「ねぇ、黒山。綾の事好き?」
とんでもない質問を投げてきた。
「は、はい!?」
いつのまにか俺への注目が多くなっている。
「どうなの?」
「べ、別に。」
「綾は?」
「そうだなぁ。私は....その....付き合っても
良いかも....なんて....思ったり?」
その瞬間教室中の男子が鬼の形相を俺に向ける。ほんと、やめてくれ。沢田はただでさえ美人なのに、赤面してもじもじされるとそれは文字通り破壊力抜群だ。もはや、爆弾である。
「お、俺は別に付き合う気とか無いから。」
「えー。でも、なんかお前も顔赤いよ?」
中村が俺の顔を指差しながら言うと
「ほんとだ!黒山わっかりやすーい!!」
横山も俺の顔を覗いて
「えー?どれどれ見せて見せて!」
沢田も俺の顔を覗こうと近づく。
「ったく!お前らうるせーよ!・
それからしばらくは俺への弄りは続いた。
放課後、俺は廊下を歩く沢田を呼び止めて昨日話していたドラマの原作本を貸した。
「あ、ありがとう。さっきあんなことあったのに貸してくれるんだね。」
「まぁ、それとこれとは別だからな。」
「ありがと!」
「返すのはいつでも良いから。」
「ほんと?ありがとう!というか結構しっかりした本なんだね。こういう本好きなの?」
「まぁ、本を読むのは好きだな。」
「へぇ、そうだ!今度御返しに「夢の川」っていう有名な本貸そうか?あ、もしかして読んだことある?」
「夢の川」という本は俺も気になっていた本だから、首を縦に振りと頷いた。
「わかった。じゃあ、今度貸すね。」
「あぁ、それより。はやく閉まってくれ。
また見つかったら誤解されるだろ。」
「そうだね。」
沢田は受け取った本を鞄にしまう。
「じゃあ、また明日。」
「また、明日。」
その日以来、俺と沢田は本を貸し借りする仲になった。そうして、会話の機会が多くなって行く内に俺の彼女に対する感情がクラスの女子から好きな人への気持ちに変わって行く。
ある日
「ねぇ、今度。綾と山田と綾と隆成で旅行行くんだけどお姉ちゃんが行けなくなって一人空くんだ。良かったら来ない?」
「旅行?」
「来週の土日と祝日」
「隆成が呼んで欲しいって。」
俺は考えた。行けば沢田と旅行が出来る事になる。だけど、来週には予定も入っているから頷けない。
「なぁ、来いよ!お前も!キャンプするんだってさ!ぜってー楽しいぜ!」
隆成も本当に来て欲しそうだし、俺も沢田と旅行に行きたい気持ちは山々だけど来週実は家族と日帰りの旅行に行くと決まっているのだ。
「わりーパス。来週用事あるんだ。」
隆「えーうそーー!」
「家族との予定でよ。もう切る訳にも行かねーんだ。」
隆「じゃあ、また今度な。」
横山が俺が不参加という一報を沢田に伝えると沢田の表情が一瞬曇ったように見えた。
いや、気のせいだろう。俺が旅行に行けなくて沢田が悲しむ理由は無い筈だから。
「えー残念だな。でも、予定入ってるなら仕方ないよ。」
沢田の表情はいつも通りの笑顔に戻った。
この時俺はまたいつか友達と旅行する機会があれば沢田も誘おう。そう思っていた。
今すぐに伝えるのは恥ずかしいから彼女に気持ちを伝えるのは今度の機会でいいやと....
一週間後
火曜日、祝日明けに学校に登校すると教室が
暗い。明かりでは無く皆のテンションが。
泣いてる者もいれば抜け殻のように萎れている者もいる。
「ど、どうしたの?」
俺は隆成に聞いた。
「!?」
よく見ると隆成は体に絆創膏を何枚も貼っている。
この時点で旅行で何かあったのだと悟った。
カラカラカラカラ
教室の戸が開き先生が入って来るやすぐに教壇にたち。日直の号令を待たずに話を始めた。
先生の話は、沢田綾が交通事故で他界した。という訃報だった。
俺は頭が真っ白になった。
信じられない。夢であってくれ。
そんなの認められない。
横山は泣いていた。山田は死人のように拉がれて、隆成からは表情が消えていた。
俺はどうしたら良いかわからず。
ただ機械的にその日は1日誰とも会話する事無く過ごした。
通夜に呼ばれても、お葬式に呼ばれても
俺は彼女の完全には死を受け入れる事が出来なかった。
数年経過して今に至る。彼女から借りた「夢の川」という本を思い出した俺はその中に登場する川のモデルになっているとされる川まで出掛けた。そこに行けば彼女に会える気がして。だけど、人生にはやりなおしが利かない。時を戻すことは出来ないのだから。でも、会いたい。
「黒山くん。」
呼ばれた気がした。振り向くと
そこには沢田が立っていた。
俺は走り寄り彼女を抱き締めた。
「ちょっ....苦しいよ。」
「夢じゃない!触れる!夢じゃない!!」
「この川には不思議な力があってね。強く思うと、一度だけ会いたい人に再開できるんだって。つか、まさか君が私の事を思ってくれてるなんてね。」
「どうしても伝えたい事があって。」
「何?」
「貴女の事が大好きでした。」
「嬉しいな。私も大好きだよ。だから一緒に旅行に行きたかったなー本当はね沢田君にも来てほしかったんだ。」
「ごめん....」
更に強く彼女を抱き締める。
「だから、苦しいって....。」
「あと、少しだけ。」
「じゃあ、私も。」
沢田はそっと俺の背に腕を回して抱き締め返した。
彼女を抱き締める感触を体温を匂いを忘れないように俺はずっとずっと抱き締め続けた。
この二度と訪れない幸せを噛み締めるように
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