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「やっと、見つけた…!」 会社帰り、もう少しで自宅マンションに着くという公園横の道端で、私は見ず知らずの男性に突然抱きしめられた。 「美弥子…会いたかった…」 最初は痴漢かと思って大声を出そうとしたけど、今の言葉で彼が人違いをしていることに気付いた。 人違いで警察に捕まっては、可哀想かもしれない。 「あの、すみません。私はあなたの言う美弥子さんではないので、離してもらってもいいですか?」 未だにぎゅうぎゅうと抱きしめる彼の背中を、トントンと叩いてみる。 「え…?」 体を離した彼は、探るように私を見つめている。 良かった、これで人違いだって気付いたよね。 そう思ったのに。 「何を言ってるんだ。僕が人違いなんてするわけないだろう?君は間違いなく美弥子だよ。僕の妻だ。」 「…は?」 いやいやいや。 おかしいでしょ。 「ですから、私は美弥子なんて名前じゃないですし…」 「そりゃそうだろ?美弥子というのは前の名前なんだから。」 「はい?」 前の名前って何よ。 「本当に覚えてないのか?君の旦那の幸助だよ?」 「…私、独身ですけど。」 「前世で僕たちは夫婦だっただろう?あんなに愛し合っていたじゃないか。」 「前、世…?」 「思い出した?」 …まずい。 とんでもなくヤバい人に関わってしまった気がする。 今日って厄日? とにかく、逃げなくちゃ! 「失礼しますっ。」 彼の腕を潜り抜け、出来る限りの全速力で走りだす。 ヒールだから走りにくいけど、そんなことに構ってはいられない。 脱兎のごとく走り出した私を、何故か彼も追いかけてきている。 しつこい! 「待って…待って美弥子!」 相手は男性。 そもそもの体力も足の長さも違う。 おまけに私はヒール。 …案の定すぐに捕まってしまった。 「どうして逃げるのっ?」 「どうしてって…いきなり見ず知らずの人に前世の嫁だとか言われたら、逃げたくもなるでしょう?!」 「見ず知らずって…僕の事本当に覚えてないの?」 「全く覚えてません。」 「そんな……生まれ変わっても一緒になろうって…愛してるって言ってたのに…」 この世の終わりのような表情の彼に、少しだけ罪悪感を感じるけど仕方がない。 だって私は、彼の求めている美弥子さんじゃないんだから。 「…きっと他の人なんですよ、美弥子さん。」 「いいや…君で間違いない。こんなに美弥子に似ているし、美弥子の匂いがするんだ。僕には分かる。なのに覚えていないなんて…」 そんな事言われてもな… 本当に幸助なんて名前に聞き覚えもないし。 そもそも前世の記憶なんてない。 「…諦めきれない。」 「え?」 「時間をくれないか。1ヶ月僕と一緒に暮らしてくれ。それで君が僕を思い出せなければ、僕は二度と君の前に現れないと約束するよ。」 「は?!いやいやダメでしょう。見ず知らずの男性と一緒に暮らすわけには…!」 「僕の家には部屋が2つあるし、鍵もかかる。君が僕を思い出さない限り、絶対に手を出さないと誓うよ。それならいいだろう?」 それならいいだろうって…良いわけないし、信用できるわけない。 「あの、それはやっぱり…」 「頼む!僕は美弥子を今でも愛してるんだ!」 お断りしますと言いたいのに、必死に頼み込まれて躊躇してしまう。 …羨ましいな。 こんなに堂々と愛してると言ってくれる人が居て。 この様子だと、私が美弥子さんじゃないと分かるまで諦めてくれないかもしれない。 「…分かりました。その代わり私に何かあったら、その時は1ヶ月待たずに家を出ますから。」 「もちろんだよ!ありがとう…!」 こうして私は明日から1ヶ月、全く見ず知らずの前世の旦那だと名乗る人と暮らすことになった。
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