つづきから

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つづきから

 いいのか悪いのか、学校から解放された僕は病院のベットで暇な毎日眠り続ける毎日だ。そう思っていたのは最初の内だけで、人間あんまり眠り続けると朝からバチッと目が覚めて昼寝できなくなるらしい。一週間もしない内にゲームばかりしていた不規則な生活リズムは強制的に健康的な生活リズムに直された。  病院の料理も不味いと噂を聞いていたけど意外と美味しい。朝食も普段は食べたり食べなかったりすけど、朝からしっかりご飯とおかずが出てくるのはありがたい。朝食の味噌汁をすすっては「あったまるな~」とお年寄りみたいに独り言を言うのも日課になった。卵かけご飯もいいけど、やっぱり日本人はご飯と漬物と味噌汁に限る。 国語の教科書に書いてあったワビサビとはこの事かと思いながら遠くの雲を眺めるのも一興。少し冷めたお茶をすすりながら、今日は何処を散歩しようかと考えるのも、これまた一興。 ゲームもいいけど、外の風を浴びて少し大人になったのかもしれない。そう思いながら、今日も病院の廊下を意味も無くさまよう。さまよった所で、これといった変化も無いし、歩くだけ暇なだけなのは、お母さんの実家の田舎と一緒なんだけど、学校の机でじっとしてるよりかは100万倍マシな事は確かだ。今は心を閉ざす必要も無いし、誰かの声で怯える必要も無い。全てはハッピーなのかもしれない。 おしっこもちょっとずつ黄色に近づいて来たので、そろそろ退院も間近かかと思うと嬉しいような悲しいような。複雑な心境だ。 今日も日課通り、休憩スペースのいくつか並んだテーブルの椅子に座ってNHKのニュースを見る。周りを見渡せば、お爺ちゃんとお婆ちゃんばかりで、テレビの音以外はシーンと静まりかえって誰かもしゃべっていない。のどかな時間が流れていく。いつまでもこのままでいいかもしれない。そう思いながら、男性アナウンサーの淡々としたニュースの読み上げを意味も分からず聞いていく。幸せとはこう言う事なのかもしれない。  と、ここまでお爺さん気分で病院生活を楽しんでいたのだが、前の席にニュースを見ている子供がいる事に気が付いた。ボサボサ頭の後ろ姿しか見えないけど、僕と同じくらいの年齢の男の子なのは分かる。一体、何処の誰が何の理由で入院しているのか気になる所だ。 孤独な学校生活で身に付けた妄想で、一瞬の内に想像が膨らんだ。あの男の子は、きっと交通事故で入院中で右足が包帯ぐるぐるに違いない。お母さんは時々しかお見舞いに来てくれないので、暇を持て余して僕みたいによく分からない癖にニュースを見ているに違いない。 きっと僕みたいに寂しい思いをしているに違いないので、顔くらいは見てあげよう。そう思って立ち上がり、ゆっくりと男の子の席まで歩いた。どんな顔でニュースを見ているんだろう。きっと僕みたいに、死んだ目をしているに違いない。伸びかかった髪の毛が横顔を隠してすようにして全然見えなかったので、失礼だけどテレビの前を横切って一瞬だけ横目で顔を見る事にした。が、それが間違いだった事にすぐ気が付いた。……太田だ。
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