小さな世界、大きな島

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最北端から、泊まっていたホテルまでは車で1時間程度で着く。ホテルに帰ってからスマートフォンを見ると、返事が返ってきていた。 「退職おめでとう(笑)」 「あのブラックまだ辞めてなかったの?!」 「とりあえず、退職祝いで飲みに行こう」 「次は休み合う仕事にしてね」 たったの4件、それだけのメッセージだったが嬉しかった。私は社会的に見たら仕事を辞める、という良くない行為をしたはずなのに、誰も怒ってなんかいない。むしろ、祝いのメッセージ。これはふざけているだけなのだが。 私は怒られるのが嫌だった、という理由で会社を辞めた。毎日朝から頭ごなしに怒鳴られ、怒鳴られない方法を考えて恐る恐る行動に移す毎日を過ごすのに、疲れてしまったのだ。辞める、と言っても怒鳴られ、辞めなとまた怒鳴られる毎日が戻ってくる。うんざりして、上司と喧嘩して帰って、そのまま退職。 私の退職は、私にとっては人生の一大イベントだったとしても、他の人にとっては大したことではない。世界は私を中心に回っていないのだ。 お前は出来ない奴、成功しない奴と暗示をかけてきた会社に味方は居なかったが、少し外に視線を向ければ味方はたくさんいる。なぜ今まで気付かなかったのだろうか。私自身もその狭い世界に閉じ籠もっていたかもしれない。 急にコンクリートジャングルが、東京が恋しくなった。何をしても味方でいてくれる友人たちがいる東京。帰って会って、話を聞いてもらおう。ああ、お土産も買って帰らなくては。わくわくしながら、羽田空港行きのチケットを取った。 結局、このとき石垣島にいたのは1週間。 きっとここにはまた来るだろう、と思うと名残惜しくは無かった。 これから現実に帰るというのに、何故か晴れやかな気持ちだった。
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