涙鼻腺液異香症

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私たち、人間は風邪をひいたときや、花粉症の症状など鼻炎にかかったときなどよく鼻水を出してしまうことがあります。 そのとき、手元にティッシュペーパーがあってハナを咬むことのできる状態にあればよいのですが、それができない場合には、鼻水をすすってしまいます。 長野県に住む 鈴村俊夫さん(仮名)46歳はその鼻水によって長年悩ませされ続けてきました。 普通の人の鼻水はほとんど無味無臭。強いて言えば体液と同じ濃度の塩分の香りしかしません。 しかし、鈴村さんの鼻水は、非常に強い異臭と唐辛子のような辛味を伴っています。 そのため、鈴村さんは子供の頃から、風邪をひくたびにその強烈な異臭と辛味にと戦わなければなりませんでした。 そのうえ、20歳を越えたあたりからは、スギ花粉によるひどい花粉症も加わりました。 鈴村さんのその悩みには、涙鼻腺液異香症という病名がつけられました。 現在、日本で涙鼻腺液異香症に悩まされている患者は約100名程です。 そのため、非常に珍しい病気であるため、あまり研究も進んでおらず、詳しい原因や治療法も解明されていません。 鈴村さんはこう言います。 「最初、二歳くらいのときに私が風邪をひいたとき、私自身はあまり記憶はないのですが、 非常にはげしく咳き込んで、それと、嘔吐を繰り返しまして、その尋常じゃない苦しがり様に 私の親がすごくびっくりしまして、これは普通の風邪じゃないと思って救急車を呼んだらしいんですね。 それで、お医者様に診てもらったところ、どれだけ調べても普通の風邪だと言うことで、 両親もこれだけ苦しがるんだから「そんな訳ない」と、ほとほと困り果てまして、まあ私が風邪をひくたびに、この調子ですから両親も大変心配したでしょうけど・・」 自宅から仕事場に向かう鈴村さん、寒くなるこの時期は特に体調に気をつけます。 「とにかく、子供の頃から、風邪をひいて鼻(鼻水)を出すたびに 大変な目にあいますから、 それで、その原因が分からない以上、うがい、手洗い、マスク、それこそできる限りの風邪の予防はとにかくしました。 ええ。 それでも、学校に行けば友達と一緒の教室で勉強したり、遊んだりするわけですから、誰かの風邪がうつったり、寒くて鼻水が出たときなんかは、それこそ地獄でしたね。 まあ、もっとも私にとっては、鼻が出て苦しい状態が普通でしたから、私以上に、私が咳き込んだり、嘔吐するのを見て、担任の先生とか、周りの友達の方が気を使って心配してくれまして、 そんなときは、すぐに先生から家に帰れと学校を帰されましたね。 今考えると、私の親のほうから学校の方へ、そうしてくれと話が行ってたのかもしれませんが。」 こう言って鈴村さんは自分の子供時代を振り返ります。    「それから、10年位たったある日にですね。いや、ほんとたまたまですよ。これは、忘れません。 近所のスーパーの電気屋のですね、展示してあるテレビコーナーの前を通りがかったときです。 ほんと、たまたま、今考えると、神様さまかなんかが引き合わせてくれたのかもしれませんが、 そのテレビで、確かMHKで海外のドキュメントがやってたんですね。 それで、そのテレビで、泣いて鼻水出してる子供が、ほんとに私と同じ症状ですよね、咳き込んで、吐いて、苦しがって涙流して・・その映像を見たわけなんですよ。 それから、もう、電気屋の店員さんが白い目で見るのなんかそっちのけで、その番組が終わるまで 多分、一時間くらいですかね、見続けまして・・そこで涙鼻腺液異香症というのを知りまして・・。」 師走。12月に入ると、毎年鈴村さんは毎朝の寒風摩擦をかかしません。寒さに負けない強靭な体をつくるためです。 「それからですよ。それから、いろんなほんと、図書館に入りびたりで、涙鼻腺液異香症について調べに調べまして。 それで、海外に約3000人、日本に約100人の患者がいると分かりまして。」 日本では今、鈴村さんを中心として「涙鼻腺液異香症の会」という名の集まりが発足されました。 参加者は全国の涙鼻腺液異香症の患者20人。 主な活動は、涙鼻腺液異香症の患者同士の情報交換。 また、講演会や、ボランティアなどをとうして一般の人にはなじみの薄い、涙鼻腺液異香症について広く理解してもらうための活動です。 「なかなかね、一般の方には、我々の苦しみというのは理解してもらえないと思うんですよ。 それで、少しでも一般の人に涙鼻腺液異香症について、どんなけ苦しいのか、どれだけ臭うのか。どれだけ気持ち悪いのか、少しでも理解していただいて、こんな病気もあるぞってことを知っていただきたいと思ったのが、この会を作ろうと思ったきっかけです。」 鈴村さんが、涙鼻腺液異香症を知るきっかけとなった電気屋さんで見かけたという、涙鼻腺液異香症の子供の映像がMHKに保管してあります。 そこには、生々しく涙鼻腺液異香症の症状に苦しむ子供の姿が写されています。 この、映像などを使い鈴村さんは涙鼻腺液異香症患者の悲惨さを訴えます。 「もう今はね、風邪とか体調を崩したときだけでなくね、春、花粉症もありますから、そりゃもうたいへんですよ。」 20XX年アメリカの研究チームが、マウスを使った、涙液の臭いに関する遺伝物質の発見を発表しました。 この発見が、今後、涙鼻腺液異香症の異臭の解明の手がかりになるのではないかと期待されています。 しかし、いまだ、はっきりとした解決法がないまま、現在46歳の鈴村さん(仮名)は 未知の病、涙鼻腺液異香症に悩まされ続けています。 1000万人に一人の奇病、涙鼻腺液異香症。今日もまた鈴村さんの戦いは続きます。 『MHK特集 ~消えぬ悪臭との闘い~』                                         終わり <上記のこの話は、まったくのフィクションであり、まったくの作り話です。実際の個人や団体、病名とは一切関係ありません>
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