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その横顔からは、飛び立つ前の鳥の気配がした。
全てが青暗さの中に沈み込んでいる夜明け前だった。
ふいに浅い眠りから覚めると、無音の時計は午前五時を差していた。
肌寒さが、冬の始まりなのだと皮膚に実感させる。
透き通る様な空気の中で、シーツにくるまり隣で眠っていたはずの彼女を見ていた。
彼女は半身を起こし、どこか遠くを見つめている。
白い背中をインクを零したような真っ黒な長い髪が覆い隠しているが、その髪の下には、夜明け前と同じ色をした痣がある。
背中だけではない、その痣は腕や足にも散らばっている。
それは夜が明けても、彼女の体に薄れつつも暫くの間残る夜だ。
私が彼女につけた夜、私の健康な歯がつけた噛み跡の夜。
彼女は十以上も年上の大人の女で何もかも自由だった。
何処へだって行けるし、私の出来ないありとあらゆることが出来た。
私にあるのは、無鉄砲な底なしの憧れと嫉妬、執着だけだ。
私が未成年だからという理由か、はたまた同性だからか、彼女と私の関係には形などつかなかった。
全ての状況と感情が混じり合い溶け合って、精神的な性欲になり、透明な群青色に燃えてゆく。
そしてそれが彼女の皮膚に夜を生む。
彼女は私から去ろうと思えばいつでも去れる。
彼女の、その横顔からは、飛び立つ前の鳥の気配がした。
どこか遠くへ行ってしまう、そんな気がした。
それなら私は何処まで追いかけられるだろうか。
分からない私は、大人でも子供でもなく、こういった瞬間、ただの十九歳なのだ。
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