817人が本棚に入れています
本棚に追加
私と冬馬の出会いはこのクリニックだった。
もう5年も前になる。
午前の診察時間が終了して自動ドアの電源を切って鍵を掛けようとしていると、ドアガラス越しにノックをされた。
顔色の悪いスーツ姿の男性が立っていて、口に手を当て今にも吐きそうな顔をしている。
先生はさっさと別の出入り口から昼食をとりに行ってしまったし、看護師さんや結衣も買いに出ている。
自力で自動ドアを開けて「すいません、午前の診療時間は終わっちゃったんです」と言うと男性は「そうですか…」と言って引き返そうとした。
具合も悪そうだしとりあえずソファーで休んでもらおうかと呼び止めると、彼は盛大に嘔吐してしまった。
そんな決してロマンチックでも運命的でもない始まりだったけど、後日仕事が終わってビルを出ると彼が立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!