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 倫子の問いに未来は、内心胸元に冷たいナイフを突きつけられた心もちになる。未来はこの絵を、叔父利人の過去をモチーフにしているのではないかと思っていたからだ。  叔父の学生時代の恋愛相手との思い出の一場面を切り取ったのではないかと。  叔父は寡黙な人で、過去の恋愛話を他人に、ましてや姪に語るような人ではなかった。   いまだ独身であることを考えると、どこかしら人間嫌いであるとか女性嫌いであるとも考えられるけれど、しかし、それは長い時間を一緒に過ごした未来には想像にもできないことだから。  ならば、過去の強い痛みから今も尚、立ち直れていないのかもしれない。未来はそう思っていた。  未来は、叔父のさりげない優しさを感じとることができる自分に、少しばかりの自信を持ててもいたし。それを感じさせてくれる叔父には感謝さえしていた。 「そうですね。さっき仰ってたじゃないですか、朝か夕方かって。なら、あたしは夕方です」
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