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「あら、どうしてそう思ったの?」  倫子は、その小柄な身体を作品の前で、腕を広げ全体を示すように未来に語りかけた。  未来は本来、到着が遅れる叔父の代理として、個展へ訪れる人たちへのホスト役を仰せつかっていたのだが、存在感ある倫子の前で完全に立場が逆転していた。 「ねぇ、よく見て。この絵には川の流れと同時に時間の流れも描かれているわ。これからも二人の人生は、この川の流れのように様々な出会いと別れを繰り返しながら長く長く続いてゆく。けれど、それが明るい未来なのか、それとも暗い闇に包まれたものになるのか。一場面に暗喩されているのよ。それが作者の意図だとしたら、この絵は見る人の心の目によって、描かれている二人の前途は変わって見えてくるの」 「あぁ、なるほど。そう見るんですね……」  制作初期から工程を見守ってきた未来にとって、倫子の言葉は新鮮を通り越して斬新にさえ感じられた。一つの作品の中で、作者と観察者の対話が成り立つものなのか? 未来にはまだ足を踏み入れたことのない領域から、倫子は自分に語りかけているのだと感じた。
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