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終戦から十年としない内に村はダムの底に沈みました。元々そんな計画だったようですよ。村人は散りぢりになり二度と会うこともないと思っておりました。ですけどねえ、世間はやっぱり狭い。
五十年前の姑のお通夜の場でございました。
我が目を疑いました。そこに旦那様がいらっしゃったのですから。
ああ、それでは大袈裟ですね。旦那様の面影を濃く残す方がいたのです。迫力のある声は旦那様そのもの。
狐につままれた様な気が致しました。でもね、その方の笑った顔を見て腑に落ちたのです。
突き出た八重歯。それは旦那様に絡みついていたあの女のもの。奥様が消えた日、屋敷にいたあの……
和尚様、そこにある箱を開けてくださいな。
その簪に見覚えはございませんか?
ご母堂の遺品にございませんでしたか?
旦那様は手をつけた女にこれを与えていたです、彼の所有物の印として。一体何本出回ったのやら。
その事を私達に教えたのはあの斎藤でした。だから奥様は簪を捨てたんです。
顔色が変わりましたね。大丈夫ですか?
貴方はご自身の出生について露ほどにも知らされはいなかった。
まあ確かに言えませんよねぇ、夫の出征中に間男の子を身篭ったなどと。
その後何食わぬ顔で嫁ぎ先に戻り終戦後直ぐにお寺を再建したとか。夫は戦死したのにお金は何処から湧いてでたのか。
周りも不思議に思わなかったんですかねえ。まあ知っていたにせよ秘密は共有すれば対等、ですからねえ。
ああ、これで心置き無く旅立てると言うものです。
その簪は差し上げますよ。
ソレもお母様の言えなかった秘密を知った共犯、でございますから。
完
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