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あの時私は執着という人の業を見たのだと思います。人の物を取るのは平気なくせに取られるのは許せない。歳を重ねれば重ねるほどあの時の旦那様の姿が醜い人間の代表のように浮かぶのですよ。
旦那様の気配が消えたのを待って私は布団を捲りました。気になったのは両足についた跡。蝋燭を近づけじっくり見るとやはり紐で縛られた様な跡がある。
もしかしたら二人は心中したのではないか。そんな思いが胸を過りました。
裾を直し布団をかけようとした時です。左手首にも紐の跡がついているのを見つけたのです。まさかと思いながらも右手首を見るとそちらにも。
そしてもうひとつ。昼見た時は分からなかったけれども、首にはしっかりと指の跡。
危うく悲鳴をあげるところでした。
天罰。
恐ろしい考えが私の中で沸き起こりました。もしかしたらあの日奥様の部屋には斎藤もいたのではないだろうか。ドタンバタンという音は旦那様が斎藤に暴力を振るう音だったのではないだろうか。奥様を部屋から引きずり出した時斎藤は半死半生、既に事切れていたのかもしれない。一人で二人は連れ出せないから先に奥様を連れ出し、その後斎藤を運んだ。
運ぶ先は山の別荘。
それなら全て納得出来た。雪山は地元の人間でもそう登らない。土地勘のない二人が、ましてや斎藤は超の着くほどの近眼です。逃避行に山を行くとは考えにくい。
旦那様に最初から殺意があったとは思いません。山に連れていったのは奥様に反省させようとしたのでないかと思うのですよ。
ところが奥様は旦那様の思う通りにはならなかった。
旦那様は二人を滝つぼに落とし自分は知らぬ顔でさも今山に登ってきたようなふりをした。
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