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私の故郷は今なら秘境と呼ばれるほどの田舎でしてね。山あいの里で真ん中には川が横たわっていました。川を少し登れば岩がごつごつしていてその先は見上げるほどの滝がございました。耕作できる平地は乏しく村人は山際に家を建て専ら林業で生計を立てておりました。  それでも自分達の口に入る分位は作れましたから、戦時中でも飢えることはなかったですね。夫はよく町では食べ物もなく配給も僅かで辛かったと言っておりましたが、村では何かと物が出回ってました。  そんな田舎にも召集令状は届きました。若い男はどんどん出征して村には寡婦や年寄り、子供ばかりが残りました。山奥のせいか疎開してくる人も殆どおらず、せいぜい嫁いで村を出た娘やその子供たちくらいでした。  にも関わらず子供は増えたのですよ。中には夫の出征から一年以上経っているのに腹の大きくなる者もおりました。相手はまだ残る男衆か、それとも嫁の色香に目の眩んだ舅か。今なら不義密通で恥さらし者ですが。  なんと言っても戦時下。産めよ増やせよの掛け声と共に、詮索もなされぬままよくやった大したものよと誉められた。不義という言葉は皇国の母という名誉の下に封じられたのですよ。  今考えるとおかしな時代ですよねえ。
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