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変わらず情に厚い友人のぶっきらぼうな一言に、胸が一杯になった雅文は何も言えずにうなずいた。
家に帰ると、俊哉は預かっていた雅文の財布を返してくれた。それと同時にラッピングされた小さな箱を投げて来る。
「ほらこれ。俺と璃子からの結婚祝いだ、受け取れ」
プレゼント仕様の箱の中身に雅文は目を丸くした。友人から渡された物は、自分が咲良に贈ったものとおそろいの腕時計だった。
「言っちゃなんだけど、高いなこれ。璃子に値段を言われてびっくりした。お前がお坊ちゃまだってこと、改めて思い知らされた」
半ば感心したように言われて雅文は思わず苦笑した。
あっという間に年が明け、咲良と暮らす道筋がつくと、雅文は仕事の合間をぬって新居探しに奔走した。咲良の条件はただ一つ、「璃子のマンションに近いこと」だった。
候補から女性陣の意見をうかがい、どうにか今後の住居を決める。そして咲良が住んでいたマンションから彼女の荷物を運び出した。だがそのことに関しては俊哉が璃子と引き受けてくれて、雅文は新しい住まいの方の準備を行っていた。
「いいからお前は先のことをしろ。過去のことは振り返るな」
あくまでも前向きな友人達に雅文はありがたく言葉に甘えた。
一月もなんとか終わりに近づき、世間が落ち着きを取りもどした後、二人は友人の助けを借りて正式に籍を入れ、夫婦になった。
*
良く晴れた日の日曜日、厳しい寒さがゆるんだ午後に雅文は咲良を迎えに行った。まとめた荷物を雅文が抱え、咲良が何度も礼を言って去ろうとしたその刹那、璃子がくしゃくしゃと顔をゆがめた。
「全く、本当にあんた達は……! 最後までこんなに心配させて──!」
肩を震わせ、涙をこぼす。
ずっと抑えていた感情を初めて見せた璃子の姿に、咲良も瞳をうるませた。
「ごめんね、本当に。今までありがとう」
璃子に抱きつき、しゃくり上げる。間近でそれを見ていた雅文は、熱く胸に迫るものを感じた。
二人の涙が収まった後、俊哉が雅文の肩を叩いた。
「ほら、もういいから早く行け。璃子には俺がついてるから。こっちはこっちでやっと二人っきりになれるんだ。もうこれ以上邪魔すんな」
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