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桃の精は鉈が足の間に突き刺さったことに気付くと、じゅくじゅくした一体感と芳醇な香りで満たされた桃の中で失禁してしまいました。
鳥は卵から生まれて空を飛び、人間は女陰から生まれて大地を踏みしめる。そういう当たり前の決まりに従って、桃の精は桃から生まれる予定でありました。
しかし何の仏罰であったのか、桃が実をつける時期に大量の雨が降り、重くしなった枝から桃の精が入った果実が一つ千切れ落ちてしまいました。
桃の木はあいにくなことに旧街道の川沿いにあり、千切れ落ちた桃は川を流され、なすすべなく辺鄙な村へと流れ着いてしまったのでした。
芳醇な果肉は、幼い桃の精の成長の糧となるために肉厚です。本来であれば内側から果肉を食べてゆっくり育ち、十分に成長した後に桃を食い破って生まれるはずでした。
しかしどんぶらこっこと流されてしまった桃は、たまたま川に洗濯に来ていた婆に拾われ、柴刈りに行っていた爺の鉈で真っ二つにされたのでした。
果肉から十分に栄養を吸収できなかった幼子は、鉈を振るわれた恐怖で失禁したことを誤魔化すかのように泣き叫びます。
――こんな未熟な肉体で外界に出られるか!
しかし言葉も話せず立ち上がれもしません。その未成熟な姿は、人間の赤子とそっくりでした。子供がいなかった爺婆は、この赤子を桃から生まれた桃太郎と名付け、自分達が育てることにしました。
桃太郎にとって桃から生まれるのは当たり前のことですから、わざわざ二つ名のように「桃から生まれた」と冠されるのは居心地が悪いことこの上ありません。また、桃太郎という名前も、言ってみれば人間が人間太郎と名付けられるようなもので、大層不満でした。
とはいえ幼い体では話すこともできず、自分が入っていたあの桃を食わせろと泣いても、爺婆は理解してくれません。桃太郎の成長のために不可欠だった桃は、細かく切り分けられ、村中の人々に配られてしまいました。
若い衆が男も女も出稼ぎに行ってしまった村には爺婆しかおりませんでしたが、桃太郎の大切な桃を食べた村人達は皆一様に元気になり、まるで十ほども若返ったようだと喜びました。
さて、一方の桃太郎はお腹を空かせて泣きわめきます。山羊の乳も飲まず、粥も食べません。
せめてもの慰めにと婆に萎びた乳房を口に含まされましたが、当然お乳は出ず、かさかさとした舌触りの乳首は空腹をまぎらわせてもくれませんでした。
弱った婆は桃太郎を爺に預け、隣村まで貰い乳をしにいきました。
芝刈りに精を出す爺の背に負われた桃太郎は、このままでは死んでしまうと悲痛な泣き声を上げます。その声があまりにも煩くて、爺は何かを桃太郎の口に放り込もうと探しますが、手頃な物が見つかりません。
生来乳首が窪んでおり慰めにも桃太郎に吸わせてやれない爺は、考えあぐねて力のない摩羅を桃太郎の口に含ませました。
婆より十も年下の爺は、桃太郎の桃を食べたおかげもあって、老いたりといえども摩羅を吸われれば少しは形が変化します。角度がほんの少し変わり、舌触りも固くなって、口寂しい桃太郎は喜びました。そのままちゅうちゅうと吸い、小さな歯でかぷかぷと噛み付けば、ごく薄い子種がとぷりと口に広がりました。
多少えぐみがあるものの、生命の源である子種は桃の果肉のように体を作る源となるものだと本能的に感じ、桃太郎は喉を鳴らして飲み込みました。
するとどうでしょう。爺の摩羅は先程出したばかりだというのに、またむくむく大きくなるではありませんか。
これには爺も桃太郎も大喜びです。桃太郎は夢中でしゃぶりつき、調子づいた爺は腰を前後にかくかくと動かしました。そして、爺はうむぅと呻くと、再び子種を桃太郎の口の中に放出しました。
先程よりよほど濃く、量も多い子種を、桃太郎はごくごくと喉を鳴らして飲み干します。口から腹、そして全身へと行き渡り、体が活力を得ていくのを感じました。
どろりと濃くなった子種の後味を楽しみながら、桃太郎は桃の果汁の代わりに子種を飲めば生きていけそうだと確信しました。
爺は桃太郎の行動と突然若さを取り戻し始めた己の摩羅に、不思議なもんじゃと首を捻りながらも、これは婆に言うわけにはいかぬと頭を抱えるのでした。
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