桃太郎異聞（加筆修正版）

　耳だけで味わったあまりにも刺激的な出来事に、摩羅に痛みさえ覚え、平次はその場にしゃがみ込んでしまいました。
　駕籠からはしばらくの間はぁはぁという荒い息遣いだけが聞こえておりましたが、少し経つと、ようやくぼそぼそと話し声が聞こえてきました。
　程なくして、弛みきった褌を掴んだ弥助だけが駕籠から出てくると、きりりとした表情と声音で「仙石岬へ行くぞ！」と言い放ちました。
　仙石岬といえば小さな漁港の町であり、弥助と平次は来た道を戻らなくてはなりません。そうなると猿を運ぶという依頼は果たせないことになりますが、弥助は迷う様子もなく、猿を駕籠の屋根へ紐でぐるぐる巻きにして結わえつけてしまいました。
　そして、摩羅を痛がり恨めしい目をする平次を見遣り、
「鬼ヶ島へ渡る船頭を見つけりゃあ、若様がまた尺八を吹いてくださるそうだ。その時はおめぇも一緒にとおっしゃったぞ」
　と上機嫌に言いました。
　あんなに激しいのが『尺八を吹く』だなんて上品なもんかいと思いますが、自分の摩羅も慰めてもらえるというのなら、平次に否やはありません。縛り付けられぎゃあぎゃあと喚く猿に頓着せず、二人で駕籠を担いでえっほえっほと走り出しました。

　平次の前を走る弥助の背中は汗が輝き、駕籠の揺れの合間にちらちらと見える尻は筋肉がきりりと吊り上って、男ぶりの充実を伝えてきます。気のせいか、若様と駕籠に篭る前よりも精力が漲っているように見えました。
　兄ぃのやつぁよほどいい思いをしたに違いないと、平次は耳に残るくぐもった悩ましい声といやらしい水音を思い出します。
　その時、駕籠が揺れたはずみで、筵の隙間から力を失った真っ白な指先が見えました。平次は一瞬、まさか死んでいるのかとぎくりとしましたが、弥助の上機嫌な様子から、若様は疲れて眠っているのだろうと考え直します。それほどに激しい『尺八』だったのだと思えば、弥助が羨ましくて仕方がありません。
　筵の隙間からちらちらと見える真っ白な指に、平次の妄想は掻き立てられてやみませんでした。若様があの白くて美しい指で己の摩羅を扱く様は、どんなに艶かしいことでしょう。その上、あのぽってりとした紅い唇で、平次の摩羅をうまそうにしゃぶってくれるのです。平次の摩羅は太いので、咥えた若様はきっと、口の周りを涎でべったりと汚し、くぐもった無様な声を漏らしてくれるに違いありません。若様の美しい顔が淫ら事で汚れ歪む様は、どれほど興奮を掻き立てることでしょう。
　妄想を逞しくした平次は、肩に乗せた担ぎ棒を片手で支えながらも、もう一方の手で股間を撫で擦らずにはおられませんでした。

　ところで、そんな駕籠の後ろを走る一匹の犬がおりました。桃太郎のお供になったはずでしたが、主人を乗せた駕籠がさっさと走り去ってしまったので、慌てて後を追ってきたのです。
　甘露の味を知り、摩羅を吸われる快感を覚え、そして何より主人を得た犬です。その目は綺羅星のように輝き、尻は嬉しげに尻の上でくるりと巻かれて、使命感すら見受けられました。
　とはいえ、誰もこの犬のことを気にかけてはおりませんでした。