桃太郎異聞(加筆修正版)

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 ――やってしもうた。  眠りから覚めた桃太郎は重い瞼を擦り、窮屈な体勢を続けたせいで痛む腰をとんとんと叩きました。甘露を出せば、神通力を失う上に眠ってしまうとわかっていました。それなのに、弥助の摩羅で喉奥を責められると、手遊(てすさ)びを我慢できなかったのです。この桃の精は、桃の中に自制心を置いてきてしまったのかもしれません。  ――まぁ仕方がない。何しろ、初めての若い摩羅であったゆえのぅ。  幾日も洗っていないのだろう()えたにおいのする弥助の摩羅は、理想の摩羅と言うには太さが少々足りませんでしたが、褌から取り出した瞬間から硬く反り立ち、黒々とした刀身の先から絶え間なく透明な汁を垂らしておりました。  事のはじめからいきり立ち、たらたらと先走りを垂れ流すその若く雄々しい様は、爺ばかりを相手にしていた桃太郎にとってはあまりにも新鮮でした。  舌を絡めて口の中に導けば、これ以上ないほどに反り返った切っ先が、桃太郎の上顎をごりごりと責めます。根元まで飲み込めば、喉奥の鋭敏な粘膜をこつんと叩きました。  喉奥への刺激が心地よくて、もっとしてくれと目で訴えながら強く吸います。すると、興奮した弥助が桃太郎の頭を鷲掴みにし、喉の奥を摩羅の先端でごんごんと突いてきたのです。桃太郎はその乱暴さと苦しさにひどく興奮し、たまらず自らの摩羅を扱いていました。  ――私はどうやら、喉の奥の苦しい場所を、摩羅で突かれるのが好きらしいのぅ。少々強引であれば尚たまらぬ。もうこれ以上は少しも入らぬという喉の奥に、子種を思い切りぶちまけられるのがあんなに()いとは。いやはや、頭が真っ白になったわ。  喉の奥を突かれる快感を思い出すにつけ、あれは己にとって食事のためだけの行為ではなくなっていると結論が出ます。爺婆のまぐわいを見て育ち、男女の閨事には一切の興味を失っていた桃太郎でしたが、多少変わった性癖を自覚するに至りました。  確信した己の趣味の悪さに落ち込むかと思いきや、桃太郎はうんうんと得心します。それは、枯れた爺どもでは満足できぬはずよ、と。  そんな桃太郎は、そもそもが淫弄な性質の桃の精ですので、目覚めた快感を更に追求したくて仕方がなくなってきました。太くて長くて固くて反り返った理想の摩羅を探し出し、苦しさに涙を流しても辞めずに喉奥を突き続けて貰わねばと、より具体的になった目標に決意を新たにします。  とはいえ、喉奥を突かれて気持ちよくなると、ついつい自分の摩羅を扱いてしまうのは問題です。摩羅を扱くのも甘露を吐き出すのも大層気持ちがよいので、喉を突かれるとつい手が伸びてしまうのです。  しかし、甘露を吐き出せば神通力は失せ、眠り込んでしまいます。喉の奥を摩羅で突き続け、子種を何度でも喉奥に流し込んでもらうためには、神通力を高めた状態をできるだけ長く続ける必要があります。だというのに、手遊びをせずにいられないのです。弥助の摩羅に喉奥を突かれた時も、あまりの気持ちよさに我慢ができず、褌を弛めて思い切り己の摩羅を扱いてしまいました。  どうすれば手遊びを我慢し、摩羅を長く楽しめるのかと真剣に頭を悩ませておりましたら、頭上からけたたましい獣の鳴き声がして考えを妨げられました。 「もし、何か騒がしいようですが」  桃太郎が外の二人に尋ねると、猿回しの猿を駕籠の上にくくりつけているのだと答えます。そういえば猿を追い出して駕籠に乗っておるのだったわと、薄情にもようやく思い出し、猿を駕籠に入れてくれるよう二人に頼みました。  凶暴だから危ないと平次が(いさ)めましたが、桃太郎には勝算がありますので、構うことはないと押し切ります。それでも綺麗な顔や体に傷がついてはと心配した平次は、猿の首に巻かれた操り紐で、猿の体を雁字搦めに縛ってから、筵を上げて桃太郎に渡しました。  口までぐるぐるに縛られた猿は喚くこともできず、癇癪を起したようにもんどりうっております。ですが、平次もさすがに猿の股間には警戒しなかったようで、桃太郎を前に摩羅はあまりにも無防備でした。桃太郎の体は弥助の子種をすっかり吸収して空腹になっていましたので、腹の足しくらいにはなるかと、早速猿の摩羅にしゃぶりつきました。  人間に少し形は似ているものの猿の摩羅は小ぶりで、残念ながら全くもって桃太郎の好みではありませんでした。しかし、ふぅふぅと鼻息荒く縛られた体をくなくなとさせる猿の様子を見て、桃太郎は天啓を得たように妙案が浮かびました。  ――これだ!  試しに摩羅から口を離してみると、猿はもっともっとというように必死な目で桃太郎を見詰めつつ、腰を前に突き出してきます。悪戯に摩羅の先にふぅっと息を吹きかけると、摩羅はぴくぴくと動き、猿はいやいやをするように首を振りました。指先でつんつんと突けば、辛抱できぬといった風情で顔を真っ赤にしておりますが、もう一息刺激が足りないようで、子種を吐き出すことができない様子です。  そうです、縛ってしまえば、その者は刺激を相手に任せることしかできぬのです。  桃太郎は自らの思いつきに満足してにやりと笑うと、必死の形相をしている猿から二度三度と子種を吸い出してやりました。  ほんのわずかの時の後。筵の隙間から縄を解かれた猿が出てきて、おとなしく駕籠の上に座ったので、弥助も平次も大層驚きました。若君に渡す前とはまるで別猿のように毛艶がよく、手や顔の皮膚もすべすべとしております。まさか美しい若君が猿の摩羅を吸い、その神通力によって猿に精力が漲っているとは想像もいたしません。  弥助も桃太郎に摩羅を吸われて多少力が漲ってはおりますが、桃太郎がすぐに甘露を吐き出して神通力が失せてしまったため、大してその恩恵を受けられてはおりませんでした。そのため、まさか神通力をもった桃の精だなどとは思いもつかず、桃太郎のことはひどく尺八がうまい寺稚児か何かだと思っておりました。  また、平次も駕籠の外でいやらしい声や音だけを聞いて妄想を逞しくしておりましたが、その妄想の力をもってしても、まさかまさか桃太郎が猿の摩羅まで吸っているとは夢にも思いません。若様は助平だがきっと動物には優しくて懐かれるのだと、大層好意的な勘違いをしておりました。  不思議な若様よと思いながら、駕籠かきたちはえっほえっほと軽快に歩みます。  そしてその駕籠の後ろを、やはり誰にも気にかけてもらえないまま、犬はひたすら追いかけていました。
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