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友達、千歳
ウエディングドレス姿のあかりを、助手席に乗せて運転する。
べつに誰も気にとめないかもしれないが、目立つ気がして、慎太郎は、ハンドルをにぎりながら落ち着かない。
二センチほど開けた車窓から、晩秋の風が入り込んで、あかりの長い髪を揺らした。
「ねえ、あんたってさあ、彼女とかいないの?」
赤信号で止まると、あかりが口を開いた。
「今は、いない」
「今は、ねえ。じゃあ、友達はいる? 男の子でもいいから」
ニヤニヤしている。
「なんだよ。いるよ。友達くらい」
「ほんとに?」
「ああ」
「じゃあ今から連れて行ってよ。あんたの友達のとこ」
慎太郎は、「はあ?」とあかりの顔を見つめた。
「いるんでしょ? 友達。せっかくだから、イケメンの子がいいなあ。あたしのドレス姿見てもらおっと。あ、ほら青だよ。信号」
イケメンの友達ねえ……。慎太郎は迷って、住宅街に入り、小さな花屋の前で車を停めた。
ここで、大学の同級生、相澤千歳がアルバイトをしているのだ。千歳は誰もが振り返るようなイケメンではないだろうが、人懐こい性格だし、姉の好みのタイプに思えた。
「うおう。お嫁さんだあ」
千歳は、店の黒いエプロンをつけて出てきた。切れ長の目をいっぱいに見張って、
「すげーな。大野くん、結婚すんだ?」と言う。
「あほか。姉貴だ」
「ああ。ナルホドナルホド」
しきりにうなずいて、「全然大野くんに似てないのな。きれいじゃん」と無邪気な感想を述べた。
「うふふ。やあねえ」
ほめられたあかりはご満悦だ。
「ちょっと待って。これあげる」
千歳は店から白いバラを一本持ってきた。手をのばし、あかりの髪にバラをさして、
「ほら、かわいー」
と、ニッコリする。
「ふぐわあ!」
あかりは、叫んでドレスの胸を押さえた。
「な、なんだ?」
慎太郎が眉をひそめると、あかりはヨロヨロとよろけて、壁に片手をついてみせた。
「胸を撃ち抜かれた……。だめよ。私には決まった人がいるんだから……」
「頭に花咲かせやがって」
姉を連れて車に乗り込む。
きれいだとか可愛いだとか、簡単に口にして、千歳は涼しい顔でいる。恥ずかしくないのだろうか。慎太郎は、疑問に思う。あかりは、千歳のような弟が欲しかったのかもしれない。
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