敵、金木

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敵、金木

公園を出て、砂利道をすこし歩く。 「金木材木店」と筆文字で書かれた、木の看板が目に入る。金木の家は、一階が事務所で、二階が住居になっているらしい。  あかりは、ためらわずインターフォンを押した。 「ピンポーン」 間が抜けていると思うほど明るい音が響きわたる。 「はい」 男の野太い声がして、慎太郎は思わず隠れた。あかりの肩を押しやって、家の裏にまわりこむ。いわゆる「ピンポンダッシュ」だ。インターフォンのカメラに映っただろうか。  男が出てきて、首をかしげてドアを閉めた。金木だ。中学の時より、ごつくなっているけど、間違いなく金木だった。金木がドアをしめる間ぎわ、 「だあれー?」 と甘えた女の声が聞こえた。  あかりは「ちょっとちょっと、しんちゃん」と、慎太郎のパーカーを引っ張った。 「いま、女の子いたよね? 彼女かな? 生意気じゃない?」 慎太郎は苦笑した。 なんとなくふたりで並んで、金木の家の二階を眺めた。眺めていると、西側の部屋の、緑色のカーテンが閉められた。一瞬金木の姿が見えた。シャッとカーテンを閉める音まで聞こえそうだった。 「うわーお。カネキの野郎」 あかりは小さく叫んだ。「ふしだらな。見てやがれ」 ギュッとくちびるを噛むと、そばにあった柿の大木に手をかけた。ヒールの靴を脱ぎ捨てて、幹に飛び乗り、よいしょよいしょとのぼっていく。真っ白なウエディングドレスのままで。 慎太郎は、あっけにとられ、「姉ちゃん!」と叫んだ。 「何やってんだよ! 降りろよ」 「いいから。静かにしてよ」 あかりは、柿の実をもぎとり、緑色のカーテンにむかって投げつけた。ひとつ。ふたつ。窓にべちゃべちゃ柿の色の汚れがつく。
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