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カーテンと窓が開いて、金木が姿を見せた。
ドレス姿のあかりを見て、呆けたような顔をしている。あかりは、息を吸い込むと、ご近所一帯に響きそうな大声で叫んだ。
「カネキのぶあーか。さいてい男! あたしという女がありながらあー!」
叫ぶだけ叫ぶと、ひらりと木から飛び降りる。
「よっしゃあ! じゅってん、れい!」
そんなことを言いつつ、しりもちをついた。「あいたたたた……」
「あほか!」
慎太郎は、駆け寄ってあかりを抱き上げた。ふわりと、ドレスのスカートが視界を遮る。そのまま公園まで走り、車に飛び乗った。
エンジンをかけ、急発進させる。ぐんぐん、金木の家から遠ざかる。
あかりが、くつくつ笑い始めた。
「見たあ? カネキのあの顔。マヌケったらなかったわ。すっごい、おかしい」
こらえきれないというように、腹をかかえ、肩をゆすった。
「カネキじゃなくて、カナキだっつうの」
慎太郎も、あかりの笑いにつられてしまう。腹の底から、どんどん笑いがこみあげてくる。
「あはははは!」
「ああ、苦しい。ドレス汚れた。しんちゃんにお姫様だっこされちゃったあ」
街路樹の銀杏並木が、フロントガラスごしに迫ってくる。秋の光をいっぱいに浴びて、金色にきらめいている。
あかりはもうすぐ、この町を出て、ベトナムへ行く。ベトナムでも、銀杏はこんな色をしているんだろうか。
「姉ちゃん」
「うん?」
「元気でいろよな。遠くへ行ってもさ」
「あはは。誰に言ってんのよ。しんちゃん」
あかりは、目の端の涙を人差し指でぬぐうと、慎太郎の肩を、バンッと叩いた。
~おわり~
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