遭逢《そうほう》・一

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遭逢《そうほう》・一

 西八条殿(にしはちじょうどの)。平清盛の邸宅。  今宵は風が強い。漆黒の空に白い月が浮かんでいる。桜が紅蓮(ぐれん)色に燃え立つ篝火(かがりび)に照らされ、花弁(はなびら)がはらはらと舞い散っている。花見の宴はいよいよ舞が披露される。富と権力を誇示(こじ)する珍しい食材を前に、皆は彼女へ注意が向いた。  年は十六、七。白拍子姿。  鮮烈(せんれつ)紅袴(くれないのはかま)の裾を踏みしだきながら現れると、護衛たちも興味が注がれた。  春鴬囀(しゅんおうてん)の舞が始まれば、静まり返った。  立烏帽子(たてえぼし)から下げ髪が流れ落ち、清澄(せいちょう)な美しい横顔が伺える。迷いのない蝙蝠(かわほり)(扇)の動き。優雅な足運び。丈長(たけなが)を結わえた黒髪が艶麗(えんれい)(ひるがえ)り、その男も目を奪われていた。名は、斉藤(さいとう)時頼(ときより)。年は二十三。十三から宮中警護にあたり、清涼殿の滝口の詰所に控える武士だ。若く美しい武者が出仕していたが、時頼は一際背が高く、人垣(ひとがき)から彼女の舞を始終(しじゅう)観ることができた。 「あの方は……」時頼が呟く。  そばにいる仲間の男が応じる。 「いま話していたところだ。あの美しさに文を出そうと申す者もいる」  その言葉に時頼は、秀眉(しゅうび)を曇らせた。
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