ぼくは洋服屋さん

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"いつもの"とは週五日のうち三日か四日は同じということだ。ただしくるみのパンはイチジクのパンになったりクロワッサンになったりする。 パンを茶色い紙袋へ入れて貰い、また来ますと言ってお店をあとにした。 左手で紙袋を抱えながら、また黄色いすべり台を通り過ぎた。同じような黄色いお月様が思い浮かぶ。 早く外套作りの続きをしなくっちゃ。 それでもぼくは仕事場の白い建物に戻ると、まずコーヒーを淹れた。ガリガリと豆を挽き、お湯を注ぐ。コーヒーの香りと苦味が頭をすっきりさせてくれる。パンをたいらげて、もうひと口コーヒーを飲んで、さあ外套作りの再開だ。 金色の糸で刺繍をしたら、大分本物の夜空に近づいた。 お次はミシンで縫っていく。 カタタタタ、カタタタタ。 夜空さんはなんとも言えない形をしている。真四角でも、真ん丸でもない。ひらひらとしていて、空なのに海の波のようだ。 全部は覆いきれないので、その時一番寒いところに着ているのだろう。
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