4人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうも~。いつになったら金返してくれるんだよぉ~。いつまで経っても返してくれないから来ちゃった」
玄関の向こうにはボクが知らない男がいた。それに何言っているんだ、こいつ!? この家に来るお客さんはこんな悪い喋り方をしない。そんな変な男が壁一枚の外側に立っている……気味の悪い。
「…………」
ママさんもボクと同じ気持ちなのか、時が過ぎて男が去るのを待つようにただ黙っている。
「おぅ、家に誰か居るのは分かっているんだからな。電気のメーターが動いてんだから」
男は前にボクがテレビで見た、人間を驚かせるお化け屋敷のお化けみたいに、ギョロッとインターホンギリギリまで目を近づけ、より気味悪さが増している。犬のボクでも、うっすら怖い。
「ひっ! 何なんですか! あなた!!」
ママさんは金切り声を上げて、きっと犬だったら全身の毛が逆立つくらいに怒っている。だけどホントは怖いんだ。だってそのすらっとした白い手が、細かく震えている。ボクが守らないと!
「へっ。最初から素直に受け答えていたら良かったんだよ。そしたら俺もそんな試すようなこと言わなかったって! だからそうカリカリ怒んなよ!」
男はママさんがとてつもなく怒っていることを少しも気にした様子もなく、軽口を叩いてくる。何なんだこいつ。ボクはついさっきと同じことを思う。この男はエモノに絡み付いて来ようとする蛇みたいなシツコさがあった。ねばっこい声の響き。気持ち悪い。
この家がオカネモチだから、嫌がらせして来るのかな? ボクはそんなことを頭のすみに思いつつも、ウーウー歯を剥き出して男を睨みつけるのを忘れない。それがボクの犬としての役目!! ボクがここの家族でいる理由!!
「そんなことより良いのかぁ~? こんな呑気に外で俺にしゃべらせといて。ご近所さんに見られでもして、どんなこと言われるんだろうなぁ~? 楽しみだなぁ~?」
男にそう言われると、ママさんは慌てて玄関へと急いでドアを開けてしまう。ボクも走ってママさんの後を追う。
ボクはその勢いのまま男に飛び掛かろうとした。こいつは悪い奴!! ボクの本能がそう告げている。でも……
最初のコメントを投稿しよう!