皆既日食

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皆既日食

肩甲骨に微かな痛みと冷たさを感じる 瞼を少し開けると 板チョコみたいに凸凹した甲羅を持つ 巨大な海洋生物が頭の中に現れて 海の底へ飄々と泳ぐ いつもの空想癖が発動して 爆発的に飛翔していると一瞬、思った 目を完全に開き、腹に力を入れて 上半身だけ起こし… 自慢の想像力のシャッターを下ろすと 寂れた商店街の前に立ってるようだ 煙草の火を揉み消す時の感覚になる 遠足のバスの窓に貼り付いて 遊び疲れて眠る子供たちを覗き込む夕闇と 見つめ合う度に煌めく哀愁みたいなもの 「楽しいこと」が、また、ひとつ 終わる感覚 視界の全部が黒い幕にじわじわと 支配されてしまう絶望感 また、いつか、出会う時 芽生えたハートのクレヨンで描く 朝焼けと鯨と海の風景が 黒い山羊に食べられて この世から消える刹那。 そういう刹那がぱらぱらと粉雪のように 降って来て頭の中が真っ白になる 白いドレスが、ふわっと、舞う 「僕は今日も全快だ。」 微笑みながら心の中でポエムを書く 僕の想像力はきっと 吸血鬼に噛まれて、身体の血液がみるみる 吸い盗られてゆく間にも 宇宙最速のロケットのように あらゆる次元の垣根を飛び越えるだろう たとえ、栄養ドリンクの小瓶の半分くらい しか血液が残らなくても するめイカのようにヒ・カ・ラ・ビ・テ・モ 「僕は今日も全快だ。」 僕の想像力には、蓋も扉もシャッターも 付いちゃいない… 「虹色の翼があるだけだっ!!!」 馬鹿デカい自分の声に驚いて、 知らないうちに閉じた目を こじ開けて、得体の知れない空間に 一人、置かれていることに気付く 暗いけど、真っ暗じゃない 色でいうと…灰と紫 空間的には黒、だけど…蚊一匹ほどの 恐怖しか感じない そう、洞窟の黒。 メルヘンチックな黒。 異国で恒例のナイト・パーティーに 参加したような高揚感。 5次元から10次元までの生命体 そう、高次元の存在達が集まって 開かれた宇宙会議に潜入したような 明日、死んでもハッピー感。 林の中で洞穴を見つけて、進んだ先に 湖があって、泳いで、渡って、歩いた 五分後に巨木を登り、辺りを見渡すと 地底に栄えた王国に辿り着いた感。 「全然、怖くない。」 中学の三年生以来、一人が寂しいなんて 思ったことない 多分、幼稚園の子供達がクレヨン持って 大きな画用紙を囲んで 思い思いの夢や希望を皆で好き放題に 描いた結果の黒。 初雪で真っ白に染まる大地を 駆け回る小さな足跡の黒。 それを見て、微笑み、庭で一緒に作る 愉快な黒。 心の中の掃除機が吸い取る黒。 海底から湧き出る油の黒。 怪獣の如く、暴れ狂った好奇心が 口から吐き出した壮大な黒。 世界に幸福を呼ぶ爽快な黒。 黒い魔法を解く救いの黒。 海、山、川、森、湖が満場一致で喜び 拍手喝采で迎える自由な黒。 純粋、無垢の…黒っっっ!!! また、空想の羽がバッサ、バッサと 鳴ってることに、ため息をして ポケットに手を忍ばせ、煙草とライターを 取り出して、笑う 俺が今、煙草に火を点けたのは 妙に高鳴る胸で駆け回る 小さいねずみを追っ払う為ではない… また、ポエムを詠む為だ 「我に餌を与えよ」 「青年よ、我にポエムを」と俺を呼ぶ獣が さっきから、うるさいのだ 何時からか、心の中に飼い始めた 大きな猫だ 「ニャー」とは鳴かない猫というか 高級レストランのナイフみたいな キレッキレの牙にヨダレが滝のように滴る獣 日本語で喋る内なる獣。 サーベルタイガーちゃんのお出ましだ 「おいっお前!!!与えるんだっっっ 我に栄養価の高い餌をっっっ こっちは、もう腹ペコリンだぞ!!! 聞いてるかい?約束の時間は過ぎたのに なんで、今日は餌を与えないのだっ!!! 速く~我に~高タンパク質な餌っっっ 三百円するカップラーメンとか 要らないから、速くっっっポ・エ・ム」 今日一番の餌をぶん投げると… みそ味のサバの缶詰めにガムシロップを 一滴足したような匂いがした 眠りから覚めてから俺は… 五感を一つずつ順番に研ぎ澄まして 最後に聴覚を遺憾なく発揮してから 空想の羽を休めることにした 「ハァ」と息を吐いた後 静か過ぎて、耳が二つとも何かの手違いで 溶けてなくなった? 野蛮な宇宙人のナイト・パーティーの前菜に出されちゃった? そういう疑問が この世に生きる蟻の数くらい溢れ出てくる ので、自分の手で耳を触って サイコロを再び投げた コオロギとマツムシが夜中に密会して 薄いピンク色の月の下で喧嘩して キスをする 二つのカクテルグラスが そっと、寄せ合って、ぶつかったような響きに拡大して、透明なピンクと紫の湖に 変換されて 僕のテーブルに甘く煮詰めた洋梨と林檎の コンポートが運ばれて来た メルヘンチックな夜が展開するテーブル の向こうに真冬の海が現れて、震度2くらいの衝突音が鳴った後 さっきの25倍の沈黙が訪れた 異世界に飛び交う電波のような 沈黙の金縛りが、三匹の蚊を呼び 少しだけ、怖くなった 空想に酔ってる場合では…ない 無いはずのシャッターが突然、下りて テーブルクロスを引き剥がす 楽しいディナータイムが止まる ナイトとフォークとお皿とサラダとスープが 五倍速の口喧嘩をする 超・高速の怒鳴り合いは0.8秒で終わった 何者かが1人 ピタ、ピタ、近付いて来る 僕の居る場所から割と離れた響きを 察知した好奇心が小さな河童を テーブルの上に運んで来た アニメチックで可愛い足音が 10匹に増殖した恐怖を蹴散らした やはり、シャッターは幻想だった 白いマントが、ふわっと、舞う 高次元の存在か? 五次元星人か? クラリオン? シリウス? プレアデス? アンドロメダ? アンタレス? あと3秒で全体像が拝めると感じた 俺は、虹色の翼を拡げることにした 地球外の何処かの星で 夜な夜な開く野蛮な儀式に潜り込む 馬鹿デカい焚き火を飾り立て 数百人の低次元の存在が集まって 皆、1人ずつ、王様の前に立って ポエムを詠むという儀式。 その夜、王様の胸打つポエムを詠んだ者は 重力を調整できる白いドレスを 1日だけ与えられ、大天使になったつもりで 他の星や銀河に光の速さで飛べるらしい そして、高次元の存在に一歩ずつ進化する 君さぁ、低次元の存在? 突然、春の木漏れ日のような声で 聞かれた俺は、言葉を無くして返事が 出来なかった 高次元の存在? 何次元の存在? 「三次元…から四次元の間かな」 へえ、低次元人だねっ 突然、現れたへなちょこ星人が 俺の株を…日本に存在する素晴らしい作家達を低く見積もったことで 龍神の逆鱗を毛抜きで引っこ抜き 虹色の翼にロバのよだれと墨汁を垂らし 優美な詩を奏でる琴線に 鴨そば、かき揚げうどんをブッかけた だから、日本代表…地球代表として 言ってやったのだ 「あと、半年くらいで五次元になるけどね」 本当かい!?それは、本当なのかい? へえ、次元上昇ってやつ? 「そう。」 僕の住む星は二次元だから僕は、今 二次元人か~ 「ブッ」 ブッ、ハッハーーー こんな台詞が人間の口から出るワケないので 不覚にも、笑ってしまった 「嘘、嘘、君たちと同じ三次元。」 可愛い河童が喋ってる時点で 笑いの槍投げ隊の袋叩きに遇っていたがな 声の…トーンもう少し、低くできない? 「ハッハーーデキナイ、デキナイ。」 「豆腐で家、一軒建てるくらい無理っ」 「ハッハーーー、ムリ、ムリ~」 「そろそろ、本題に入ろうか、地球人。」 それは、そう。 「うん、僕は低次元の星の詩人さ」 「白いマントを着て、君を迎えに来た」 どういうこと? 「さっき、君にイメージで送ったの わかった?」 あの、変な儀式? 「そう、僕の王国で毎晩、開かれるんだ」 僕の王国…って?王子様なの!?君 「ハッハッハー、思い知ったかー」 いや、別に 「つまり、君の潜在意識と詩人としての 才能をゲットする為に君をこの謎の空間に 閉じ込めたのさっ」 お前も、謎なんだな?この場所 知らないんだな? 「そう。」 「それより、お互い、顔が見えないの 嫌だから、ランタン点けるよ?」 ランタン?低次元だな。 「僕は五次元星人だけどねっ」 真夏の太陽の下 横に倒れたサイダー 蟻の大群が押し寄せて 無いはずの影を作るように 人の形をした柔らかな影が壁に立つ 僕の視界の下半分が純白に染まる 小さな冠を被った少年が 春の木漏れ日のような声で 「こんばんは」 僕はラベンダー畑のような声で 「こんばんは」と返すところを 雨上がりの水溜まりに映る雲のような声で 「人体模型?」とつぶやいた 人体模型!!! 「何だっそれっソレッ!!!」 お祭りですか? 「そうかもしれない…ね」 君のイメージが僕を人体模型に してるんだぜ!!! 「五次元星人だから?」 それは、そう。 君が可愛い河童のイメージをすれば 僕はいつでもコケティッシュな王子様に 変身するってことさっ 「本当かい?それは、本当なのかい?」 それっ僕のモノマネかい!? 「それは、そう。」 君、低次元人に興味あるかい? 「うん…今は、王子様と遊びたい」 そっか、じゃあ一緒に空、飛んでさっ 僕の王国にお出でよっ!!! 「そうだな」 このマント、みてっ 「これ、マントなんだ…」 それは、そう。 「真似された…」 ヘヘッ、 このプラグを回して青いランプにすると 光の速さで、ブッ飛べるんだ!!! 凄いだろ? 「うん、あと一つは、どこにあるの?」 あっいっけねぇー 実は、これを君にプレゼントして 僕が飛行船で案内する予定だったけど 飛行船、壊れちゃったー へぇー 今、やったらダメだよ!? 洞窟に頭、ドカーンってなるよ!!! 「こんな所で頭蓋骨、骨折したら…とても 切なくなるなっ」 本当、そう。 「意外と難しいでしょ?」 試しにマントを借りて練習したが 豆腐でセンター前ヒット打つくらい 無理だった 君、名前は? 「俺の名は創幻。」 「王子様は?」 僕は、クジラ!!! 「海のデッカイ鯨?」 そう 「カッコいいー」 そっちも、なかなかの響きだよっ 「ハッハー、思い知ったかー」 思い知った、思い知った そうだっ質問!!!「何?」 ポエムの王国まで、あと何分かかる? 「この洞窟を光の速さで五時間くらい」 はっ!!!??? 「嘘、嘘、今の速さで、あと二時間かな」 無理、ムリ、豆腐で、高層ビルの窓ピカピカにするくらい、無理っっっ 「だって僕の飛行船、動かないもん」 マジなの? 頭がボウリングの球の如し… 地球って割と親切な星なんだな この星の重力、ムリ… なぁ、体重何キロ? 「僕の星の重力で35キロ」 「僕は今にも駆け出したい気分さっ」 待ってよ… ってことは!!!おまえがドレス着て 背中に俺が掴まれば、ロケットみたいに 飛べんじゃね? 「そうかもねっ」 殺す気だったの? 「そうかもねっ」 王子様… 「じゃあ、そうしますか~」 俺たちは 雲という雲を突き抜ける龍神の如く 異世界に導く巨大な洞窟の中を 穴という穴を神秘の風に乗って 幻想的な速さで 潜り抜けた 老後のあれこれ、どうでもよくなる ハッピー感。 さっきの海洋生物より小さい甲羅の上に 二人で飛び乗ると、板チョコみたいな凸凹に 足を引っかけて、体のバランスを崩して、 無いはずの白いセカンドベースにキレッキレのベッドスライディングを決めていた。 「ご主人様っ!?」 「大丈夫…ですか?」 「おー!ビックリ、ビックリ」と言いながら 立ち上がった俺は、無いはずのユニホームに 付いた泥を叩き落とした 目の前に 白黒の可愛いメイド服を着た美女が現れて 「創幻さん、ケガなんか~してる場合じゃ~ないんだからねっ」と叱る 照れながら「それは、そう。」と言う ピョンピョン跳ねる蛙の妖精が、止まり 後ろへ、ピョンピョン駆け寄る 何をジタバタしてるんだい? 「ちょっと、テンション上げ過ぎて、空想の羽が、バッサ、バッサとねっ!!!」 あっ、そう。 「なぁ君の王国まで、あと何分くらい?」 サナギが蝶に変わるくらい! 「全然、わからん…」 城の近くに公園があるんだ!! 出会った記念に二人でポエム詠もうよっ 「まぁ、いいけど…その前に俺が呼ばれた 理由って何なの?」 いや~これが、また 一筋縄では、語れないのさっ 「ふぅーん、まぁ、超絶、楽しいから 何でもいいけど」 まず、君にやって欲しいことは… ポエムの王国が主催するコンテストに 参加して、女王様をドキドキさせて 優勝トロフィーをゲットすること!!! 「面白そうだな」 「蛙の妖精さんは、そのドレス何回ゲットしたことあるの?」 837回目かな。 「本当かい?それは、本当なのかい?」 ハハッ本当さっ 王国の皆は、あまり良い教育を受けてない から、感性がミジンコみたいでね… 王様を愉快にさせるポエムなんて あと10年は書けやしないさ でも、今回に限っては、日本に生まれた 君じゃないと困るんだ 王国のあれこれを決定するのは王様だけど 実際は、女王様が司令塔なんだ 「へぇー」 理由は、海の底に沈めておくねっ 「夜な夜な、泳いで、拾ってくる」 女王様は 地球に存在する【四季】というモノに 夢中なんだ その中でも【春】というモノが好きでねっ それが、コンテストのテーマなんだなー 「春か~彼方!!!」 僕の住む星は、何処かの星の空洞に 存在してて、一年中、同じ気温が 死ぬまで続くから、それに関する知識も 感性もクソもないのさっ 「なるほど…」 【春】を表現する想像の種が、僕のハート には、一つもないのさ ミジンコの方が詳しいくらいにねっ 「王子様は今、何歳?」 8才だよ、ねぇ、この蛙の妖精じゃ 歩きづらいから別の妖精に変えてくれない? 「では、ニンニクの妖精にしてやる」 おいっ 「大人はその儀式やるの?」 勿論、でも今までアホみたいな学校教育 受けてきたから、暗い洞窟の奥に ぶっ飛んだ発想の種を閉まったままで 詩を書いても梅雨時の曇った綿飴しか 創れないんだな~ つまらん、つまらん 実につまらん 見て、あれっ!!!公園だよっ 「はっ???」 「山が?公園???」 山って、何それ?木だよっ木っっっ そういえば、地球の木は、迫力に欠けてる なぁーとは思った 飛行船から見たら、ミジンコ過ぎて つまらん!つまらん!!とねっ 多分、地球の木がメダカだとしたら~ 僕の星の木は、マグロかサメかな… 見上げ足りない程に馬鹿デカイ巨木の前に たった俺は、ボウリングの球を後ろへ ぶん投げて、尻を強打して 手首にミジンコくらいのヒビが入り 視界にマンモスくらいの犬が通り 子猫の頭を撫でるように そっと 「何だ、それっソレッ」と言った 鮪でも鮫でも何でもいいが 目の前に存在するクリスマスツリーが 日本列島の真ん中に立ったら 明日の天気予報など一生、見ない 傘が日本から消える 傘の会社が半年で全部、倒産する さっきの続きね 地球の木がメダカだとしたら~ 僕の星の木は、マグロじゃなくて サメでもなくて… クジラっっっ!!! 「本当かい!?それは、本当なのかい?」 今度は、マンモスの背中に乗ったような ハイテンションで言った 創幻!!! 「お祭りですか?」 俺は、金銀財宝を目の前にした 探検家、よろしく お口をぱっくり、開けて 「それは、そう。」 メルヘンチックな太陽が燦々として 永遠に続くような木漏れ日を浴びて 【春】のポエムを詠む為に 虹色の翼を拡げ、筆を取る 内なる洞窟の扉が開き 宇宙と繋がる土管が開き 夢と現実が出会い ひとつの空間で重なる瞬間に起きる現象 神秘的な黒の太陽 皆既日食。 マンモスみたいな犬の背中に乗って あっち、こっちと駆け回る 白いマントを着た人体模型の サイダーみたいな笑い声。 「春と全然、関係ねぇな~」
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