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地底湖の扉
昨日の夜
近所のコンビニから家に帰る
途中で見た月を思い出す
「宇宙に穴が開いたみたいだ」
その穴からヒラヒラ
落ちて来た
【夏の夜】という題名の絵画を
びり、びり、破く
その切れ端を拾って
拾って、拾って
集める
力の限り小さくして
丸く湿った絵画の塊を右手に、封じ込め
田んぼから出て来た蛙の
背中に投げつけた
渇き悶える地底の重力が蛙1匹分
軽くなった
夏の夜を彩る生き物たちが
夢の舞台で、沈黙を破る
オーケストラのように
この星に生まれた喜びを表現する
宇宙にできた琥珀の池に飛び込む
一匹の蛙が
メルヘンチックに死んだ
子供が手放した風船のように
みるみる虚無に、吸い込まれて
死んだ
そういう、静けさ、儚さ。
洞窟で息絶える寸前の探検家みたいに
光る想像のライトが照らす
僕の王国
青と灰の色が幻みたいな夜空を描く
城の外は、役場や学校
コンビニとスーパーと弁当屋
図書館と大型書店と居酒屋ちょっと
街全体を囲む林が緑の城壁のように見える
小さな川が幾つか、城の外の異世界へと伸びる
カビ臭い宝箱を開けてみると
ねずみ色の影が僕の後ろへ逃げていった
探検家の眼がキラリと光り
サファイア、紫水晶、ガーネットが映る
この世に存在する宝石が
街全体に散りばめられたような高揚感
黒い魔法が解けて
自由自適に遊ぶ人間達
この世の絵の具の全部が
地球の端から端まで
横一列で並び、夜空に浮かぶ
琥珀の池に飛び込むと光に変換されて
みるみる上昇し、膨れ上がって、丸くなる
虹の星が宇宙に誕生する
五次元空間に転がり込んだ水晶玉に
黄緑のジャングルが映る
サーベル・タイガーの背中に乗った少年が
未開拓の星を探検する
空想の羽を拡げて
王さま気分で愉快な星の設計に奮闘する
メルヘンチックに生まれ変わった僕は
あの日、宇宙の便座に飛び込んだ
丸い形をした【夏の夜】という題名の絵画に
殺された日…魂を抜き取られた日
黒い魔法にかかった世界設定が
悲鳴を上げて、貝殻が開く時
ブラックオパールの輝きで目覚める時
世界中に蒔かれた星の種が芽生える時
【地底栽培の太陽】が陽の目を見る
その時、起きる革命を
空想する
銀色に光るナイフみたいな魚が数十匹
ゆっくり泳ぎ、暗い湖の中に
小さな円を描く
洞窟の天井に穴が開いた
「皆既日食だ」
電気を消した部屋の片隅で
黄色になったエアコンの運転ランプが
夜空に浮かぶ飛行物体に見えた
「ファーン、ふぁーん」
「ウィーン、うぃーん」
何処かの星に向かって
飛び立つ宇宙船に乗ってるような気分
「ファーン、ふぁーん」
「ウィーン、うぃーん」
誰もが一瞬で病人に変身する鏡のように
凍った水溜まりの中で微笑む少年
そして、現れた
何処かの星の太陽
地底に浮かぶ太陽
翠の星の真ん中で煌めく太陽
10年前に買ったエアコンの音が
脳の神経回路を巡り、ノックする
全身の細胞壁に反響して
古い記憶のページを捲り
無いはずの窓の反対側に
幼い子供を登場させる
宇宙船の窓の向こう側に
光の速さで暗闇の大草原を駆け上がる
四足歩行の幻獣の背中に
白いマントが、ふわっと、舞う。
神秘の土管を潜り抜け
無数の星の粒子が窓に射し込むと
黒いカーテンが
青、緑、紫、と膨らんだ
白いマントが、ふわっと、舞う
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