アイドル人形

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「ありがとう。詩織……もうしばらく、このままでいて」 涼介は詩織の身体をいつまでも優しく包み込んでいた。  数時間後……。 深夜になって記者会見の続きが行われていた。 「僕が、愛する人は……美憂さんではありません。一般の女性です。僕はその女性と結婚します!」 一斉にカメラのフラッシュが光る。 ただ唖然、呆然としている記者もいたが、一人のレポーターがすかさず質問を投げた。 「一般の女性というのは、どのような方ですか? 美憂さんとの結婚はどうなるんですか?」 涼介は言葉を続けた。 「僕にはずっと前から好きな女性が居ます。 それは今までも、これからも変わる事はありません。 皆様にご迷惑をおかけすることはお詫びします。責任を取り、今日を以て日本の芸能界からは引退させて頂きます」 会場にいた美憂が慌てて立ち上がり、驚いた様子を見せた。 そして、顔をくしゃくしゃにして、「うわン……」と言うと、一度だけ地団駄を踏み、ドレスの裾を靡かせながら会見場を後にした。 数人の記者が美憂を追いかけたが会場のスタッフに制止され、その先には進めない。 マネージャーは、美憂に続き控室に入ってしまった。 部屋の中からは何やら大きな嗚咽が聞こえていたが、涼介の引退記者会見はそのまま続けられた。 美憂は人差し指で一粒の涙を拭った。 「うわ~ん。生まれて初めて私、振られたかも……」 そう言うと、バッグから目薬を取り出し、両目に注す。 美憂のその演技を誰一人として見破ることはできなかった…… と思っていたのだが、マネージャーはさっきの仕返しとばかり、 「美憂さん、本当に泣いてます?」 と言って小さく舌を見せ、ハンカチを美憂に差し出した。 「うるさい!もぉ~~イヤだ!! 黙れ。おい山中(・・)!」 「え……?」 「ビジネスの戦略変更よ。しばらく悲劇のヒロインで行くわ! すぐに各関係部署に手配よろしく! それから明日の午前中に、単独の記者会見準備もお願いね! OK? ……分かったら直ぐにLet’s GO!」 美憂はそう言うと、パンパン! と手を打った。 「了解です!」 マネージャー山中(・・)は直立不動で敬礼のポーズをして見せた。 美憂はクルッと向きを変え、そして微笑みながら、小さな小さな声で壁に向かって呟いた。 「涼介……それでいいのよ。幸せになってね。」 美憂にとってのシャボン玉のような初恋は終わった。 頬にはいつもより温かい涙が流れていた。
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