真昼の出来事

2/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
(腹の調子でも悪いのかな?)  黙ったまま、助手席側の窓の外を眺めている矢部さんを横目に見ながら、進藤さんがそんなことを考えていると、 「……なぁ、となりの運転手、なんか変だぜ」  車外に視線を残したまま、矢部さんがぽつりと呟いた。 「変って、何がですか?」  ちょうど目の前の信号が赤に変わり停車したので、進藤さんも矢部さんの視線の先の左車線に停まっている車に目を向けた。白地に青いラインの入ったトヨタのクラウン。走行中よく見かける、個人タクシーの車体だ。白シャツ姿の運転手さんは、黒縁の眼鏡をかけた中年男性。にこやかな顔つきで口を動かす様子が、二枚のガラス越しからでも見て取れた。お客さんとの会話が弾んでいるのだろうか。声は聞こえずとも、そんな想像が出来た。 「ずいぶんと、楽しそうに話していますね」  愛想の悪い運転手さんに当たってしまうよりは、話術に()けた運転手さんの方がいいではないか。いったい何が「変」なのか。 「美人のお客さんでも、乗っているんですか?」  進藤さんの位置からでは、タクシーの後部座席までは見えなかったので、矢部さんにそう尋ねてみる。 「いや……」  普段なら、女性に関しての話題となったらうるさいくらいに食いついてくるくせに、なぜか随分と歯切れが悪い。今日の矢部さんはやっぱりおかしい。だが、その後に続いた矢部さんの言葉は、予想外の返答だった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!