2人が本棚に入れています
本棚に追加
ファムはウォーレンが座っていた椅子に座り、彼が残した研究を覗きこんだ。
「むぅ・・・・・・。」
ファムは絶句していた。
この研究にどれだけの惨劇が繰り広げられ、どれだけの断末魔が伴っていたのか、一読して判る。
そして、呪文は完成していた。
血で赤く染まった、かつて白く輝いていたウォーレンの魔道書に、呪文は書き記されていた。
ではあの地表の、死してなお動く怪物は・・・なんだ?
呪文は未完成なのか?
読み込むうちに、次第が判ってきた。
秘薬か・・・。
呪文を唱え魔法を放つのに、その触媒として秘薬が必要なのだが、その秘薬が間違っていたのか。
ウォーレンの残した赤いローブの内側にある、秘薬袋を漁ってみる。
マンドレイクの根、血苔、ナイトシェードの葉・・・・・・。
一つ足りなかった。
大蒜。
どこでも手に入るはずの、大蒜だけが無かったのだ。
魔道書に記されるはずの必要な秘薬にも、大蒜は書き込まれていなかった。
もしかして・・・・・・・。
ファムの脳裏には、ある伝承が思い出されていた。
吸血鬼伝説。
人の血を吸う、不死の一族の伝承。
遭遇したことは無いが、たしか不死が故に消魔の力がある大蒜を大の苦手にしていたとか・・・。
ウォーレンも恐らく、その不死の怪に身を窶してしまったのであろうことは、想像に難くない。
故に、大蒜を使うことができなかったのでは・・・。
やはり呪文は未完成だったのだ。
未完のままその呪文を使ったため、地表のあの死せる怪物を生み出してしまったのでは・・・。
そして呪文を使い続けたがゆえにこの墓地に死せる怪物が溢れ返ってしまったでは・・・。
彼らはこの呪文の、哀れな犠牲者のなれの果て、ということか・・・・・・。
血の気の失せた薄笑い浮かべたまま、ファムは遺されたウォーレンの魔法のペンを握った。
「白き大魔道師ウォーレン。あんたを唆してしまった、あてくしにも責がある。この悪夢の業・・・共に背負うよ。そしてあと少しで完成のこの呪文・・・あてくしが完成させる。」
そして共に名を遺すことなく、歴史の闇に消えよう。
程なくして完成した蘇生の呪文は赤き魔道書に書き記され、老成の極にある、白き大魔道師テトの元に送られた。
最初のコメントを投稿しよう!