『等級A!!? うそうそ!? え?? このスキルが???』

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『等級A!!? うそうそ!? え?? このスキルが???』

「へっふぇ!? 夢酒さん達死んだ!?うっっっそでしょ?」 とある異世界、その世界には唯一つしかない建造物、その中のロビー内に今の声は大きく響く。 通り行く人はいるが、他の人は特に気にせず歩みは止まらない。 「そうらしいよ。連絡断って1ヶ月近い、死亡扱い。等級Bで固めてもたまにこれだからもう怖い怖い」 片方も大声で反応された事を気にせずに、今の話を続ける。 雑談するは女性が二人。共に同じゆったり目の黒いローブを着ている。 背には金の刺繍に『滅』の一文字 「マジかー好きじゃなかったけど嫌いでもなかったよナムナム。ってその異世界の等級は何? まさか無謀にもAに凸ちゃったとか言わないよね?」 「夢酒さん達行った時は等級Cで今は何かAになってる」 「出たそれ!そのパターン! 最近その罠多くない? 偵察機械マジで仕事してないでしょ、これ大問題だよ」 片方の女性が近場のテーブルをバンバンと叩く。 「偵察機言っても限界あるからなー、あと1年もすれば劇的に向上するなんて言われてるけど眉唾物よ。  まあ移動職人の末端同士用心って事で。私もこれからチームでBに飛ぶから椎名達も気を付けなよ」 そう言って去っていく同僚を見ながら、ポケットを弄る。 取り出したそれの袋を開けて口の中に入れた。 「気を付けろって言われてもねぇ…何をどう気を付ければこの世界生き続けられるのか教えて欲しいわ」 コロコロと転がすのは棒付きキャンディ。   転生して早速だけど異世界転生者を殺してきてね! - 異世界 滅師職人 - ピッ ピッ ピッ 規則的な機械の音がする。 死が迎えに来たのだと、感じた。 自分は、とうとう碌に社会を知る事も無く学生のまま生涯を終えようとしている。 交通事故、だったと思う。 小さい男の子が明後日の方向に弾んだボールを追い掛ける。 何気なかった。何気なく歩いていたその日常の風景は、その瞬間、様変わりした。 小さな僕よりも小さい、その男の子はボールを拾う為に道路に飛び出した。 走った。間に合うかもしれない、間に合わないかもしれない。 その時は無我夢中だったから『その後自分はどうなる?』が頭から抜け落ちる。 ボールを拾った男の子の前には大型のトラックが─── そこから先の事は記憶にない。助けようとした男の子が無事だったかも分からない。 ただ、自分はどうやら助けようとしてむしろトラックと接触したようだった。 足の感触がない。くっついているんだろうか? いきなりこんな状況だ、周囲に父さんが居る筈もない。 せめて最期に見ておきたかった…な 我ながらバカバカしい。 見ず知らずの為に咄嗟に行動した後に、今とても後悔している。 だって今、思っているのだ もっと生きていたい─── と。 願いは儚く塵と消え、僕は無に還る。 最期に見る病室の天井は、蛍光灯。 真っ白い。天井も真っ白い。 真っ白い物に看取られながら御船創技は中学一年───齢13にして、この世を去った。 「おっ? 来た来た」 この世を去った………筈なのに、まだ声がする。 死んだという感覚は自ら分かる。自分は今、死んだ筈だ。 でも死んだ後の事を僕は知らない。 その時は、死んでもまだ少しは意識あるのかな?と思ったぐらい。 「ってまーた私より子供じゃん! 私は子守りじゃねっつーの!」 看護師さん…? 聞こえるその声は若い、でも今まで聞いた看護師さんのどの声とも違う。 寧ろ、もっと若い気がする。 「ほら起きなよ。君はまだ生きてるよ?」 今、漆黒の闇を見ている。多分二度とは開かぬ瞼 絶対に開かぬだろうその瞼、声の主が見たくて開いてみようという気持ちになる。 瞼は、驚く程あっさり開いた。 「えっ…?」 再び僕の目に入るのは真っ白い物。 病室の真っ白い天井、真っ白い蛍光灯 いや、それらとは違う白。 ───女性の下着を見ながら、僕は二度目の転生を受ける事になる。 「なっっ………!??」 咄嗟に顔を上げて、後退る。脳裏に焼き付いたパンツが鮮明に残る。 いや焼き付かせるな。忘れろ忘れろ。 そんな僕の目の前には腰を落とした若い女性、青い髪は両サイドに髪留めで束ねて肩まで流してある。 黒いブカブカの服を着ていて、下は短いスカート。さっき見たのはそのスカートの中身。 「そう怯えなくてもいいじゃん。ほら食べる?」 そう言うと目前の女性はポケットを弄って、何やら一つ取り出した。 袋を破って、僕に向けるそれは、 棒付きの…赤い色した…丸いキャンディ…? 見た目はチュッパチャップスみたいだ。 「ほら、あーん」 言われ、釣られて口が開く。条件反射だった。 そして、キャンディを口の中に突っ込まれた。 意味不明が雨の様に降り注ぐ中で舐めた舌の感触、味はイチゴ。 「さて、君は残念ながら君の世界では死んでしまった訳だけど『幸運にして』『残念ながら』『選ばれて』生かされてしまった。ここまでは理解できるかな?」 キャンディを舐めながら首を横に振る。 「ま、いきなり言われてもそうだよねー、分かる。分かるよ。でも選ばれたからには、もう逃げられないのだよ〜」 言って、女性は立ち上がった。 「ここは全世界の監督所。『ミカエル』と呼ぶ。君みたいな子がスキルを得て転生する。稀稀稀の稀にある。そういう者達が否応無く働く。そーゆー場所」 両手を広げながら語るその内容はちっとも頭に入って来ない。 ただ、一つ聞きたかった。 「…僕って、まだ生きてるの?」 自分の両手を見ながら、訪ねた。腕にしていた点滴が消えている。口にしていた呼吸器も。 いや、全ての機械は取り外されている。 「君は生きてる。君の世界でどういう風に死んだのかは知らないけどちゃんと健全な状態のままここに転生された」 「と思うんだけど」と繋げながら女性は、片手にいつの間にかタブレットの様なものを取り出した。 「───うんうん、健全な体に転生してる筈だから安心しなー。てかそろそろ立ってよ」 そう言われても、自分は立つ事が出来ないぐらいにもうダメだった。 そもそも足の感覚すら消失していた。 「ほら手貸したげる。立って立って」 伸ばされた手。掴んだその手は、とても暖かかった。 主治医、看護師さん、父さん、そのどれとも違う暖かさ。 その暖かさに導かれるまま、自分の足は、重りから解放されたようにすくりと直立する。 「遅くなったけど自己紹介しよっか? 私は椎名祭、椎名はここに書いてある通り、祭はお祭りの祭りだよ」 ん、と見せるように差し出す胸元には『椎名』と書かれたプレートが指してある。 看護師さんとかがしているそれだ、見覚えがある。 「み…御船…創技…」 椎名…さんから特に悪意は感じない。 だからこちらも姓名を教える。当然今まであまり名乗った事は無い。 「みふねそーぎ君ね。よし!整った。そろそろ君のスキルが降りてくる筈よ」 何が整ったのかよく分からない。椎名さんは今度は空中で指を小刻みに動かし始めた。 「えーと出た出た。御船創技。年齢は13才って私より3つも下じゃん。  交通事故により死亡か。運が無かったねー。で…肝心のスキルは…」 「『漢の字を描く』???」 椎名さんは指を顎に充てる。 「漢の字ってあの『漢字』? 変なスキルはよく見るけど、これもまた変なスキルね。  戦闘向きじゃないハズレの予感しか…し〜な〜い〜け〜ど〜↑」 漢字…そう言えば漢字検定四級を取得しようと勉強していた。 三級はちょっと厳しそうだなみたいな感想を昨日の夜漏らした覚えがある。 ん?漢の字がなんだって? 「おっと…等級も降りてきた」 「へっふぇ!? A!!? うそうそ!?え?? このスキルが???」 椎名さんがいきなり奇声を上げた。僕の顔と指先で何かしてるその先を相互に見比べているみたいだ。 僕は今も何が何やら分からない。直立不動のまま気を付けの姿勢を取っている。 「見せろ椎名」 別の声がした。男の…いや、男の子の声。 見ると、いつの間にか椎名さんの腕にしがみついてる姿がある。 男の子だ、僕と同じ…いや身長的にそれ以下? 黒い髪だが、首から下はやけに汚れ…って違う、あれ迷彩だ。黒白の色合いがやや強い迷彩の外套で全身を覆っている。 「こらクロノ、椎名『さん』でしょ全く…」 クロノと呼ばれた黒髪の男の子は、椎名さんの指先にあるらしき物を覗き込む様にしている。 そして一言。 「何かの間違いだ」 そして僕を睨み付けた。 「等級に間違いなんて聞いた事ないけどねー、やった私は念願のSSR滅師を引き当てたぞー!!」 「俺は信じないからな」 二人共別々の反応を示している。 どうやっても全く意味が分からず、全く付いて行けない。 「そーぎ君、詳しい話はまあ後にするとして、これから君とチームを組む仲間を紹介するよ。ほら隠れてないで出ておいでー」 椎名さんがパンパンと手を叩く。そうするとクロノと言われてた男の子とは逆側、椎名さんの左側から突如として人が現れた。 髪の色は銀…いや白? 身長は140か142センチぐらい?僕が158センチぐらいで、それよりはかなり低い。 ゴシックロリータな白柄のワンピースを着た雪の様に、白い女の子。 「はい仲良く自己紹介。そーぎ君の事は二人共一部始終見てたからもういいでしよ?」 …何か椎名さんとそれ以外で妙な温度差を感じるのは気のせいなんだろうか? 「雛戦」 白髪の女の子は椎名さんの黒い服を掴みながら、小さな声でそう名乗った。 「雛〜声が小さいよ〜、もっと大きく胸張って喋る様にって言ってるでしょ」 椎名さんが言うが、ヒナセンと名乗った少女はそれ以降口を開かなかった。 「ほらアンタも!」 椎名さんはもう片方の、男の子の背中を叩く。 でも男の子はそっぽを向いた。 「クロノ…?」 自分がそう口にする。 「こいつ!?俺の名をいつの間に! スキルか!?」 「いやーさっき私がポロっとアンタの名前出したのを覚えてただけでしょ」 椎名さんがフォローを入れてくれた。全く持ってその通りだ。 椎名さんはともかく、今の二人は僕に対して全く友好的には見えない。 チーム?チーム?…チーム??? 何一つ飲み込めないまま、僕を置いてけぼりに何かがスムーズに進行している。 口の中のキャンディと言えば、もうとっくに溶けていた。    
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