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「えっ?行方不明?」
それは礼司の知らない事件だった。
「まあ、警察が少し調べたんですが事件性が無かったので」
「じゃあ、今は?」
「神社本庁が宮司が派遣されて来ています」
自宅は氏子さんが管理しています」
※神社本庁とは日本に有る神社の総本部で一部の宗教法人以外は
それを統括し跡継ぎのいない神社は神社本庁が派遣する事になっている。
「そうなんですか?ところであの車、
駐車場を借りるまで2,3日置いていただけますか?」
「ああ、いいですよ。そう言えば、
昨日の渋谷の事件ひどかったようです」
住職が礼司に言った。
「ああ、ニュースを見るのを見忘れていた」
「割れた蛍光管が喉に突き刺さってカップルの一人が亡くなったそうです」
「死んだのは男性ですか?」
「はい」
もし、犯人が鬼ならば魔美が今夜現れるはず礼司はそう思って墓石のある
方向を見た。
「車の事はなるだけ早く処理しますので」
礼司は深々と頭を下げると大鳥神社に向かった。
そこに神主が出てきた。
「すみません、ここの元の神主さんは?」
「ええ、ここの宮司は三年前から行方不明なんです」
※神主は神社の役職、宮司はその神社の一番偉いひと。
「宮司さんってどんな方でした?」
「私も面識が無くてご一家三人だったそうです」
「ひょっとしたら奥さんの名前は由美さん」
「いいえ、鳳義房さんと英子さんです。息子さんのお名前は確か・・・孝文さんとか」
「そうですか」
やはりアナザーワールドに時間か人間関係に完全なずれがあった。
しかし、礼司は大切な事を聞くのを忘れていた。
たらればの話だが自分がこっちの世界の由美と結婚し
もう一人の自分がSSATの川島由美と結ばれていれば
魔美が三人生まれ世の中が大きく変っていたかもしれなかった。
しかし、事件から2日経っても魔美は現れず
公休の礼司は定食屋のサバの味噌煮を食べていた。
そこにミソからLINEで写真が送られてきた。
「なんだこれ?」
蛍光灯が男に首に刺さって血だらけになっている姿だった。
「この写真はなんだ?」
礼司が聞いた。
「俺の仲間が送ってくれました。ひどい写真でしょ」
「ありがとう。やはり蛍光灯が槍だった。
蛍光灯メーカーにも責任があるかもしれないな」
「そうですね。こんな蛍光灯の割れ方したら怖くてしょうがない」
「うん」
礼司は思天井の蛍光灯を見た。
礼司はミソこと田中雄と板橋小竹町にある
焼き肉屋安楽亭にタクシーを止めて会っていた。
炭火焼の安楽亭は車が止められてるうえに、
ランチ定食が500円で安く上がった。
「久しぶりですね」
ミソは礼司が乗車じゃない時に葬式があると代わりに
仕事を紹介されていた。
「この前の事件、明日葬式だそうです。
また夜野さんが呼ばれるんじゃないですか」
「そうか、司法解剖とかで警察が動いたんだろうな。店の管理責任もあるし」
「そうですね。お店に管理責任がありますよね」
「でも蛍光管が割れて人が死ぬかな?」
「ええ、斜めに割れて槍のようになって喉に突き刺さったそうです」
「斜め?じゃあ蛍光灯メーカーの製造責任も出て来るぞ」
「今夜、また有ったりして・・・」
「あはは、それこそ悪魔の仕業だ!」
礼司は裏の事情を知らないミソには冗談で言った。
「ところで車が手に入ったよ」
「良かったですね。車ほしがっていましたよね」
「乗務以外の時にちょっとな・・・たまたま友人の車を預かった」
礼司はそう言いながらも栗原の車をどうやって
向こうの世界に戻すか悩んでいた。
「他の連中は?」
「今日は明け休です。今頃寝ていますよ」
「今度みんなで会ってみたいな」
「わかりました。俺の方で調整します」
「わるいですね」
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