2章 硝鬼

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礼司はTV局の元部下やSSATの部下たちには命令口調で言えたが タクシー仲間には謙虚だった。 「そう言えば夜野さんの前職は?」 自動車の運転免許取得から3年経たないと二種免許を取れないので 最低21歳からしかタクシーの運転手になれない、当然前職があるのが当然だった。 「大きな声では言えないがジャパンテレビのディレクターだった」 「マジ?正社員ですか?」 「うん、第一制作部でニュースを作っていた」 それを聞いたミソは笑い出した。 「夜野さんがニュースですか?」 「笑う事は無いだろう」 「すみません。ニュースよりバラエティやクイズ番組を作るように見えたので、  超エリートなのになぜ辞めたんですか?」 ミソは礼司が忙しい時間の23時ごろ姿を眩ますのを知っていてまじめに 働いているように思えなかった。 「ああ、俺はとても頭が良いんだ」 「わかっていますが自分でいう事は・・・」 「いや、自然科学の大学教授並みの知識と武器、逮捕術の警察並みの知識、そして 霊能力を持っている」 「本当ですか~」 ミソは疑っていた。 「例えば自然科学は存在の発見、起源の探求、過程の解明、原理の応用だ。  外にあるイチョウの木は裸子植物」 「ミソさん裸子植物と被子植物の違いは?」 「えっ?」 ミソは突然言われて戸惑っていた。 「被子植物は綺麗な花が咲いて受粉が虫や鳥によって行われる虫媒花、鳥媒花と呼ばれ 被子植物花が咲くけど目立たなくて風によって受粉する風媒花」 「確かにイチョウや楓の花を見た事無い」 「そのイチョウは原産国は中国、約3億年前に誕生して170万年の氷河期に ほとんどが絶滅した雌雄異株で銀杏が成る株とならない株はあるんだ」 「へえ、なるほど」 「イチョウは何年前に誕生したかは化石によって調べるし、化石のイチョウと 現在のイチョウを比べて絶滅したイチョウがわかるわけです。そしてイチョウは 公害に強いから並木の植える事が多いわけです。そして銀杏の体に対する効用 の研究から苗木の作り方まで」 「あはは、すごいすごい。武器とか逮捕術って?」 「うん、柔道五段、剣道三段、特殊警棒も扱える」 「本当ですか?」 「それと霊能力は4秒後19歳の女性が入口から入ってくるその女性は  大学1年生でこのお店のアルバイト鈴木美香さん」 「えっ?」 4秒後ツインテールの女性が入って来てレジ裏の部屋に入って行った。 「本当だ!」 ミソこと田中雄は唖然としていた。 「これがテレビ局を辞めた理由だよ」 「どうしてですか?」 「霊能者FBI捜査官って知っていますか?」 「ええ、テレビでよくやっている」 「俺はその番組のディレクターをやってそのFBĪ捜査官が 行方不明の女性の遺体が山に埋められていると言っていて山を散々捜査して 見つからなったんだ」 「そりゃ簡単に全部見つかったら大変ですよ」 「その山を捜索した時、部下のスタッフが滑落して大けがしたんだよ」 「それは夜野さんの責任問題でしょう」 「うん、始末書をたくさん書かされたよ。それだけじゃなくて俺は 女性の遺体はダム湖に沈められているのを感じて  一人でダム湖に行って死体の入ったトランクを見つけたんだよ」 「あっ、それ見ました。でもあれってその霊能者が見つけたんじゃ・・・」 「やらせだよ。アメリカからわざわざ呼んだんだから エセ霊能者の能力で発見した事にしてしまった事に上司に食って掛かったんだ。 他の番組でもゲストの学者さんのコメントが間違っているので 打ち合わせで文句を言って激怒させたり」 「それで間違っていたんですか?」 「うん、放送していたらクレームが入っていたよ」 「あはは、それで首ですか?」 「まあ、そんなところだ」 「やらせ疑惑の責任を押し付けてきたプロデューサーと喧嘩して辞めた」 「我慢すればよかったのに・・・年収良かったんでしょう」 「うん、残業が多かったから大台近かった」 「もったいない。他に就職なかったんですか?どこかの制作会社に入るとか独立するとか」 「誘いは有ったけど人間関係に疲れてさあ」 「でも、預金は有ったでしょ」 「離婚の時にマンションごとくれてやって中野新橋の1Kのアパートに住んでいる。  てかマンションのローンの残債も払っている」 「マジすか。夜野さん良い人なんですね」 「あはは、そうでもないよ。それより今夜辺りまた事件が起きそうだ」 礼司は何かぞくぞくする嫌な雰囲気がしていた。 「本当ですか?」 「ただ、コンビニなんか山ほどあるしな」 「そうですね、運転して思ったんですけどどうして同じチェーンが固まって 出店しているんでしょうかね」 「うんそれは理由がある、ドミナント戦略と言って運送費の節約と 他のチェーンの競合を追い出すためだ」 「なるほど、理由が有ったんですね。さすが!元ディレクター」 「まあ、また情報が連絡ください」 「了解です」 「要町通りを池袋へ向かって要町交差点に赤いトランクを持った 女性が立っているから乗せてくれ」 「わかりました、でもその前に他のタクシーに・・・」 ミソが礼司の顔をじっと見た。 「大丈夫だ」 「ひょっとしたら、お客さんのいる場所わかるんじゃ・・・」 「さて仕事行こうか」 礼司と田中はそれぞれ車を営業エリアに向かって走らせた。 田中の目の前に赤いトランクを持った女性が手をあげていた。 「ありがとうございます。どちらまで?」 「羽田空港お願いします」 「おしゃべりすぎたかな?」 礼司は田中が女性を乗せるのを確認すると山手通りを新宿へ向かって走らせた。
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