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「ど、どこへ行くんですか?」
「あの雲から逃げる!」
「どこまで?」
「向こうの世界に戻ってもいいがもう一度こちらの世界に戻れる保証が無い」
栗原は後ろを振り返って空を見上げた。
「だんだん大きくなっていますよ」
栗原は雲を指さした。
「わかっている。まだ大丈夫なはずなんだが・・・」
礼司は時計を見ながら雲の様子を観察していた。
「時間が関係するんですか?」
「うん、関係する」
「夜野さん私の家に来て!」
魔美から電話があった。
「おい、携帯電話通じるのかよ。家ってどこだ?」
「善念寺の隣の大鳥神社」
「ん?」
礼司はタクシーを走らせると墓地の向こうに鳥居があり社殿があった。
「本当だ、神社がある」
礼司は神社脇の自宅にタクシーを寄せると
車いすに乗った由美が居た。
「あっ、お久しぶりです」
礼司は車から降りて由美に深々と頭を下げた。
「うふふ、その声は夜野礼司さん。こんばんは」
向こうの世界の由美と同じ顔をしていたが
こちらの由美は車いすに乗っていた。
「夜野さん、ママを車に乗せて」
魔美は車いすを押した。
「は、はい」
礼司はトランクを開けると後ろのドアに回った。
「栗原さん奥に移動してください」
「はい」
「私、前に座るわ」
由美は前を指刺した。
「はい」
礼司は前のドアを開けた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、左足と左手と目が不自由なので」
「そうですか」
タクシー運転手の礼司は慣れた手つきで由美を助手席に座らせ
車いすをたたみトランクにしまった。
「お上手ですね。乗せ方」
「職業柄です」
タクシーは障害者手帳を持った人は運賃の1割を
引くので障害者の使用頻度は高い、
礼司も慣れていた。
「魔美は今日は後ろだ!」
「はい」
魔美は幅180cm室内長190cmのタクシーに長さ221cmの弓を斜めに乗せた。
「ちょっとじゃまだけど・・・」
「大丈夫だ運転できる」
亮は運転席に乗って由美の顔を見た。
「由美さん・・・どうすればいいですか?
空を覆う黒い雲が次第に赤くなっています」
「眼鬼は雲のような鬼なので攻撃しても手ごたえが無く、ガス(煙鬼)のように 熱して爆発させることもできない」
由美は空に浮かぶ赤い雲を心眼で見ていた。
「難しいですね」
「魔美、鬼のノブください」
「礼司さん、相手はかなり強いわ今までのようにいかないわよ」
「あいつはどんな力持っているんですか?」
「空から眼光を当てて動きを止めてそれを食うのよ」
「メドゥーサのように石にして?」
「うふふ、どちらかと言うと肉の塊」
「わあ・・・」
栗原が声を出して頭を抱えると由美が振り返った。
「あなたが娘を襲った男?」
「いいえ、襲おうとしたのは柿本と梨田です」
「まあ。巫女を襲うなんて彼らにはいつか天罰が下るわ」
「本当か?」
礼司が驚いて由美の顔を見た。
「ええ、そうよ。そうか・・・あなたは向こうの礼司さんだったわね」
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